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ベトナムで実感した対面会議や講義の価値

先日新聞で興味深い記事がありました。モニター画面越しでのウェブ会議では、人が実際に会って話すのに比べ、創造的なアイデアが生まれにくいとの論文を米コロンビア大などのチームが科学し「ネイチャー」に発表したというものです。

チームでは約600人の学生を対面かウェブ会議のいずれかに分けて、ある利用方法のアイデア出しを一定時間内にどれだけ考えられるか実験したところ、対面では平均約16.8個のアイデアが出たのに対して、ウェブ会議では14.7個に留まったというものでした。これだけでは誤差の範囲かも知れないと思いましたが、アイデア個数に限らず、斬新性の使い方でも創造的評価されたアイデアは対面チームの方が多かったとのことです。またイスラエルやフィンランドなど5か国で開かれた企業研修で、技術者に新製品を考える実験を行ったところ、対面の方がより多くのアイデアが提案されたという結果でした。

コロナ以降の2年余りの間、企業研修も職場のコミュニケーションの手段もどんどんウェブ化されています。しかしその結果、コミュケーションの質や生産性、研修の効果が落ちているのではないかというのは、皆さん何となく感じていたのではないでしょうか?

私自身も企業研修やセミナー、海外での経営者研修は、以前は対面で行っていました。コロナでやむを得ずオンライン化が進むことで、対面で実施するための交通費や会場費などのコストは劇的に下がりました。参加コストだけでなく研修の内容そのものが知識付与型に重点が移ってしまっているようにも感じます。

この2年間、私が提供してきていた海外展開支援のコア部分である海外人材育成においても、できる限りオンライン化で提供する体制に取組んできました。研修の多くの部分においてもZOOM対応を可能にしました。経営支援でもオンライン対応にしました。しかし、ノウハウ提供のセミナーにしろ研修にしろ、知識習得だけならインターネット上に無料で多くリソースを見つけることができます。

ところが、そういったオンライン空間で見つけられる知識やノウハウをこま切れで集めてZOOM研修を社員に提供しているだけで、本当の人材育成につながっているのでしょうか? コロナ以降の2年半のコミュニケーションのウェブ化によって、人と人とのつながりの力も相当低下してしまったように思えて仕方がありませんでした。

社内の会議を通じた意思伝達や人と人との共感、モチベーション、チームビルディングによる組織力の重要性と一人ひとりの能力が、オンライン化によってどんどん弱体化しているという実感を強く持っていました。

ウェブコミュニケーションと対面コミュニケーションのどちらが最も高い成果につながるかという点で、この実験結果は私にとっても我が意を得たりと感じるとともに、やはり対面型コミュニケーションの重要性について改めて考えさせられました。アフターコロナ時代の企業や人材の強さというのは、全てがデジタル化にシフトすることに優位性があるのではなく、対面研修や対面組織力こそ本物の力につながるのではないでしょうか。

オンライン研修やセミナーの限界

4月に2年4か月ぶりにベトナムのハノイとホーチミンに出張したときの経験については以前のブログで述べた通りです。その出張目的は経営塾というベトナム企業の経営人材育成支援研修の講義のためでした。

この研修での講師を担当して2014年から連続して既に8年目になります。当研修で担当するテーマは経営人材向けの経営計画マネジメントですが、単に経営計画を立案するための分析手法や立案ノウハウを伝えるだけではありません。経営者としてどう会社経営を実践していくべきかの視点で、今まで学んだ経営知識を総動員して実践的なワークショップを主体に構成していますので、かなりの部分を参加者同士のグループディスカッションを通じて、チームで実践的な経営計画を立案してもらっています。

主旨から考えると当然対面型研修が一番フィットしています。参加者同士の相互議論や講師との双方向のやり取りから経営の気づきを学んでもらうことで効果が上がります。

ところが2020年2月にパンデミックが起き、止むを得ず研修プログラムが無期限延期となる中で、日程の再調整とともにオンライン化への模索が続いてきました。そのやり方も試行錯誤の末、日本人講師は日本の自宅からZOOMでつなぎ、ベトナム側はある時期は教室に集合して大画面に写された私からの講義を聞きながら、グループワークでは教室のレイアウトをアイランド形式にしてディスカッションしてもらいました。またベトナムでコロナ感染が拡大して集合ができない時には、参加者と通訳と講師がそれぞれ多次元接続して、ZOOM会議でブレイクアウトルームを使いながら工夫してやってきました。

しかし講師が日本に一人でいて、ベトナム側に通訳と20名以上の参加者を個別につないでの双方向コミュニケーションを実施するのは本当に大変です。ブレイクアウトルームに通訳と一緒に順番に入っていっても、そこでどのような雰囲気で何のテーマでどういう内容のディスカッションで、何が行き詰まっているのかを掴むだけでも困難です。しかも順番にルームを回っていっても、参加者自身も各自の家からつないでいるので、ほとんど研修に身が入っていないという雰囲気を強く感じました。

ZOOMでは参加者一人ひとりの真剣さはどうしても低くなります。皆さんも経験があると思いますが、ZOOM参加でも全員がビデオをオンにしていないことも多いですし、移動中につないでいる方は聞くだけ参加になってしまいます。発言しない人が多くなるので、参加者によるチームビルディングは相当難しいです。また参加者は自分自身のスキルアップにはなかなかつながらないだけではなく、研修や会議自体を傍観者として聞くスタンスを持ちがちなので、研修や会議に対する満足感や評価は第三者的立場のようにどうしても低くなってしまいます(自分の評価は横に置いたままで)。

また私も日本でいろんなZOOMセミナーやウェブ会議にも参加する機会が増えておりますが、メリットとしては地域性の壁を乗り越えることができるので、今までは近隣地域で行われる研修やセミナーぐらいしか参加できなかったところ、東京や海外でのセミナーにも簡単に参加できるようになり、テーマ領域も一気に拡大したと思います。しかし、気軽に参加できるようになった反面、どうしても表面的な内容に留まり、人的ネットワークを深く構築することは難しく感じます。

改めて認識された対面型研修の成果

ベトナムの経営塾では試行錯誤してオンラインでの講義に移行していきました。幸いにも私の講義に対する参加者からのフィードバック評価はそう低くはなっていなかったのですが、直近のクラスではベトナム人講師を含めてほとんどのテーマがオンライン実施になってしまい、参加者同士のコミュニケーションもあまりなく、普段は高い評価を受けている他の先生の講義に対する評価がかなり低下する傾向が顕著になってきました。先生方はそれぞれ工夫はされているのですが、参加者にとっては講師との双方向コミュニケーションが取れていないことに対するフラストレーションが相当なレベルとなっていたようです。

その問題が飽和状態に近づく中で何とかしたいという現地の実施主体の要望が強まっていたときに、私が担当するセッションが4月に予定されていたのです。3月までは引き続きZOOMで実施ということになっていました。ところが、ちょうどその前月の3月15日からベトナムで入国規制が一気に緩和され、日本からの入国者は陰性証明さえあれば、ノービザ入国が可能で隔離待機は不要ということになりました。

これによって次回講師である私がベトナムにコロナ後初めて短期出張を実現し、何とか対面型研修を再開できるのではないかということで現地から強い要望を受けました。私自身も対面型研修の必要性をずっと考えていたので、事務局にはご面倒をおかけしましたが、何とかPCR検査で陰性証明書を取って4月10日に渡航することができました。

滞在期間中の状況についてはいろいろと想定外のこともありましたが、結果的に現地に渡航して対面型研修を再開できたことは大変良かったと思っています。また無事陽性にならずに現地で陰性証明を取って帰国することができました。

現地での対面型研修は大変期待されていたこともあり、ハノイではこの2年の間に実施したZOOM研修での以前の年の参加者で希望する人は、補講という形でリアルの対面研修に参加を許されたとのことで、何と通常の定員の倍近い45名が研修会場に集まって一週間の研修を受けられたのです。

また第二週目はホーチミンに移動して、同じ研修をホーチミン受講生にも受けてもらいましたが、結論として今回2週間の経営塾は大成功に終わったと思います。ハノイ、ホーチミンとも私が今まで経験したことがないほど、参加者のモチベーションが非常に高かったのです。それほど双方向での研修ができなかったことにフラストレーションがあったということでもありますが、リアルに参加者同士でディスカッションを行い、実践的ワークショップを通じて、講師とも双方向でかなりの時間で質疑応答を行ったことがその背景にあります。

研修後のアンケートにおいても、ハノイ、ホーチミン双方ともZOOM研修ではありえなかったほどの高い満足度のスコアが出ていましたし、一人ひとりのコメントにおいても非常に効果的で良かったというものが多かったのです。まだこの両クラスの参加者は最終的に日本研修が組まれているのですが、コロナの状況でまだ日本に団体で入国できる状況にないため、いつ実施できるかどうかについては明確にはなっていません。しかし、今回の研修で最終の日本研修での意義を明確につなげることができ、参加者の経営者としての研修成果に向けたモチベーションを一気に上げることができたと思っています。

日本企業も対面研修や対面会議の効果検証を

今は企業ではオンライン研修やウェブ会議は当たり前のように実施されていると思います。しかし、十分感染対策は確立できていると思います。研修や会議を対面で行うことが感染原因となることはもはや考えられません。アフターコロナ時代に競争優位性を発揮するための組織力や人材力を強化するために、コミュニケーションや人材育成の手法について再検証するべきで段階ではないでしょうか。

組織力と人材力を高めるキーワードは一人ひとりの「気づき」にあると思っています。

この「気づき」は非接触のオンラインでは獲得することは大変難しい課題です。人と人との日常のやりとりや、他の人同士指示、報告や会話が聞こえる場の空気はオンラインでは感じられません。しかし場の空気から得られる「気づき」こそが人を育て、組織力を高める源泉であると信じています。

コロナの影響に立ち止まっている間に、表面的な非接触ツールを活用するデジタル化こそが唯一の処方箋だと誤解してはいないでしょうか。

今一度対面型のコミュニケーションの重要性を振り返り、リアルの対面型研修に舵を戻してみませんか! 海外展開の人材育成なら是非ご相談ください。