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中小企業がM&Aを検討するときに考えておくべきこと

事業承継問題はコロナを機に益々日本企業の競争力を低下させている大きな原因の一つになっています。数年前から経営者の高齢化と後継者の目途がついていない中小企業が急増していました。

実際予測通り日本企業の休廃業・解散件数は右肩上がりとなっています。2020年の倒産件数は7773件で、コロナの影響がありながらも決して増えていません。2013年時点では年間1万件以上の倒産件数でしたが、その後も件数自体は減少傾向を続けていました。

ところが、コロナの影響による営業自粛や制限に加え、事業承継問題から廃業・解散する企業が増加し、2020年では49698件となっています。しかも、その廃業・解散した企業の内、60%以上が黒字経営であったのです。

これは日本経済にとって大きな損失です。経営不振によって倒産し退場するのは、貴重な人材も成長分野にシフトしていくことで企業の新陳代謝という意味からプラスに働きます。しかし、黒字経営でありながらも事業を承継する経営者がいないために廃業するのは由々しき問題です。

後継経営者の育成確保は、少子化による人口減少に歯止めがかからない中で、いくら公的機関の支援や税優遇政策を強化して事業承継支援を行っても親族承継そのものに限界があります。

それならば雇用を守り、社会経済を次世代にバトンタッチするためには、M&Aによる第三者への事業承継を加速させていくことが社会的にも大きな意義があります。

いくら家族経営の個人事業であったとしても、事業を通じて社会に価値を提供し、従業員を雇用している企業は社会の公器です。子どもが継いでくれないとか、親族や会社幹部が承継してくれる見込みがないからといって、企業を私物として扱うように簡単に事業を廃業・解散するべきではないと思うのです。

企業は経営者の私有財産ではなく、国・社会全体の資産でもあります。従業員を雇用するという意味は、国・社会や先祖が教育投資して育った人材の能力を賃金を払って活用させてもらっているということです。それを後継者がいないという理由で廃業し、人材や資産を無駄にしてしまうことはある意味罪でもあります。

つまり廃業を決断するくらいなら、とことん第三者に事業を継いでもらう、即ちM&Aの可能性を追求してもらう努力が必要だと思うのです。

大手M&A業者に頼るのは果たして正解か?

事業承継や売却を検討するにあたって、まず相談されるのは中小企業の主力金融機関の地方銀行や信用金庫ではないでしょうか。実際、2019年の地方銀行でも事業承継に関する相談受付件数は年間約5万件です。

またM&A実施意向について企業が相談するのは、金融機関に紹介を依頼するケースが一番多く、買い手としての相談が76%、売り手としては60%となっています。

その次に多いのはM&A専門仲介業者に依頼するというものです。今までのM&Aは大手企業による買収案件が軸であったために、ほぼ金融機関ルートで受けた情報から全国規模の案件データの強みを活かすことができます。買い手側と売り手側のマッチングをその情報網から仲介し、基本合意からデューデリジェンスと呼ばれる監査を専門家を活用して行い、契約交渉からクロージングまでもっていくことで莫大な仲介手数料を売り手、買い手双方から往復ビンタで稼ぐのが彼らのビジネスモデルです。

最近、中小企業の事業承継問題から中小M&Aの需要が増えているのを受けて、M&A業者だけでなく、ITを活用したM&Aマッチングプラットフォームまで乱立しています。支援を受ける中小企業にとって、M&Aマッチング業者に仲介してもらうことが果たして正解なのでしょうか。

今のM&A仲介業はまさしく不動産仲介に近くなっているという印象があります。売り手、買い手双方から仲介手数料を獲得するために、ほとんどが営業力が物を言う企業経営になっているような気がします。しかし、企業のM&Aは不動産のような土地や建物という有形固定資産の仲介ではありません。当然企業買収には対価を決めて取引するわけですから、企業価値を納得のいく形で算出し双方が合意する必要があります。でも企業は生き物です。企業価値には将来生み出すであろう利益となっている技術力や財務諸表に乗って来ないブランド力や人材の能力、ノウハウといった無形資産も評価して取引されます。単なるのモノの売り買いではありません。

M&Aが成功するかどうかは、クロージングが出発点となるPMI(Post Merger Integration)、つまり買収後の企業統合にかかっています。大企業のM&Aで失敗している原因のほとんどはこのPMIのマネジメントであると思います。みずほ銀行のシステムトラブルなどは典型的な例でしょう。

それほど大事なPMIですが、PMIは経営コンサルティングの領域です。それこそ企業とともに伴走型の支援が求められます。ところが、仲介手数料による利益を重視するM&A仲介業にとって、PMIは彼らのカネにはならないのです。もちろん一気通貫でPMIの支援サービスも充実していると大手M&Aの仲介業者はアピールしますが、所詮仲介業者の論理でアフターサービスの一つに過ぎません。

中小企業の経営者で事業承継問題からM&Aを検討したいと考えておられる方は注意してもらいたいのです。PMIから発想して支援できるM&Aのパートナーはいったいどこなのでしょうか。

日本M&Aセンターの不祥事から考える

ご存知の方もおられると思いますが、日本には三大M&A仲介業者がいます。日本M&Aセンター、M&Aキャピタルパートナーズ、そしてストライクです。中でも最大手の日本M&Aセンターは、M&A仲介の草分け的存在で、企業業績も急成長で株価もうなぎ上りでした。

ところが最近架空取引計上の問題発覚し一気に株価が暴落しました。当初売上の期ずれ問題ということでしたが、調査報告後の発表によれば、売上至上主義の営業体質が指摘され、案件開発の売上ノルマの追及があまりにも厳しいことから、期末に向けた架空契約の計上が会社全体に蔓延していたようです。もちろん契約自体が存在しないので、期を跨った後には契約不成立ということで売上がキャンセルとなり不正経理とは言いにくいのですが、期末決算時には架空売上が含まれているので大問題です。

M&Aを仲介することで企業の成長発展や事業承継に貢献する時代のニーズに合致した事業でしたが、結局は大きくなり過ぎて、本来の事業目的から大きく外れ、不動産業と同じような手数料を稼ぐために、営業至上主義の結果こういった不祥事を招いたと思います。M&Aに限らず売上しか見えていない企業ほど、顧客よりもノルマを優先して、在庫の押し込みだとか、空売りといった営業行為を生む体質があるのではないでしょうか。

最大手の日本M&Aだけが問題かどうかはわかりませんが、大きくなればなるほど、企業と企業を仲介する事業の本質を忘れがちになることを考えた方が良さそうです。

中小企業にとって相応しい支援事業者は、PMIからあるべきM&Aを提案し、企業と一緒になってM&A後の成長発展を伴走型で支援し続けることができるところであるべきかと思うのです。その意味でも、PMI支援に最も長けた支援者は中小企業診断士だと思っています。M&Aを支援する専門士業には会計士や税理士、弁護士などもおられますが、まずは経営戦略支援ありきで考えることが正解であり、中小企業診断士が軸になって専門士業とプロセス支援チームを構成し、そこに金融機関と事業引継ぎセンター等の公的機関とネットワークを組み、小規模M&Aを中小企業視点で柔軟かつ迅速な対応を実現することが理想的です。

ただ、その中小企業のためのM&A士業プラットフォームはまだ十分な体制づくりができていません。士業をつなぎ、金融機関との連携体制を実現するために、仲介業者ではない専門家間の協力が重要で鍵を握ると思っています。