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顧客価値をつくる鍵はマーケティング

成長発展を約束する5つの支援原則

個人的なことですが、最近自宅の屋根と外壁の塗装を業者にやっていただく機会がありました。実際には自宅の塗装工事は2回目なのですが、今回改めて塗装業者とのやり取りから発注、工事完工までの体験を通じて、改めて企業が発展するために最も大事なのは何かということについて自分なりに感じた点についてを述べたいと思います。

屋根・外壁塗装で発注先を決めた理由

最初どこの業者に発注しようかと考えたとき、もちろん価格だけでなく工事品質の信頼性などが大事なわけですので、当然相見積もりをして検討しました。

まず3通りの業者に分けました。一つは住宅の保守メンテナンスという観点から住宅会社を通じて塗装リフォームを発注する方法、2つ目が地元の外壁塗装で実績のあるリフォーム会社、3つ目が屋根・塗装専業の業者です。

最初の住宅会社経由の発注はまず検討から外しました。元々住宅会社自身は塗装する現業部門を持っておらず、下請けに丸投げするだけで結局中抜きされてかなり高いようです。場合によっては300万もかかったところがあると聞き、これはまず候補から外しました。

あとは地元のリフォーム会社と塗装専業の会社に絞り見積もりを依頼することにしました。地元のリフォームは評判が第一ですので、まず品質やサービスでは問題ないと思われます。たまたま隣家がそこで塗装工事をやっていたこともあって、現場で直接見積もり依頼をして、きっちりと見積書を出していただきました。価格的にもそこそこのレベルであったと思います。

また屋根・塗装の専業会社ですがこれは玉石混合です。直接ピンポン鳴らして飛び込みで売込んでくる業者もありますが、だいたい価格は腹の探りを入れながら少しでも高く売ろうする姿勢があります。また、業者と見積もり希望者の間をマッチングさせる紹介サイトを通じて見積もりを得る方法もあります。

結局、地元の塗装リフォーム会社1社と、マッチング紹介を受けた塗装専業会社の2社から見積もりをしてもらいました。当初はどれくらいの費用がかかるのか、傷みが目立ってきている屋根だけをやってもらったらどんな感じかなという情報を得る軽い気持ちで見積もりを取ったのですが、最後は屋根と外壁を合わせてマッチングで紹介された業者(隣の市)に発注をして工事を行ってもらったのでした。

そこに決めた理由は総合的判断からでしたが、決して見積もりが一番低かったからということではなかったのです。

見積りを出してくれた3業者の中で、顕著に違っていたのが見積もり提出後のマーケティング力の違いでした。しかし売込みが激しかったというわけではありません。3社とも塗料のグレードの違いによって何種類かの見積書とともに、塗料カタログであったり施工のプロセスを細かく説明した資料をつけていました。

しかし、3社のうち2社はその見積書を出しっぱなしだったのです。建設市場関連では相見積もりは一般的ですが、見積りを出しても成約できるのはだいたい10%ぐらいといわれています。10件の引き合いに細かく見積もり作業を行って、見積書を仕上げて提出しても9件は空振りに終わるのです。だから無駄な仕事はしたくないという意識が強く、引き合いの段階で施主と面談したときに、本気で発注は考えていないと判断して、とりあえず出しておこうかというところが多いのではないかと思います。

私も引き合いを出すときに、相場を知りたいぐたいのニュアンスで止めていたので真剣には対応してくれなかったと思います。しかし本心は塗装リフォームはやる気で資金も用意していたことを2社はわかっていなかったのです。結局その2社は最後まで見積もり以外のアクションは取りませんでした。

残る一社とこの2社との違いは、商談に対応したのが営業社員であったということです。彼は終始顧客である私がなぜ今回塗装工事を依頼しようとしたのか、その理由について理解しようとしていました。そのやりとりの中で価格的にどのあたりなら受入れられるのか、また競合はどのような提案をしてきたのかについての情報も私から聞き出していました。

屋根・外壁塗装工事の中身は結構複雑で、業者によっては提案してくる内容も微妙に変わります。一番大きな違いとなるのが塗料の種類であるのですが、正直どこがどう違うのか素人にはわかりにくいです。工事プロセスで使っている用語もわからないことが多いです。そこでわからなかったらメッセージを入れてくださいと言われていたので、双方向のコミュニケーションが成立し、疑問に思ったことについてメッセージを入れるとすぐに返事が来ていました。

もちろん他の2社の見積もりの内、もう1社の専業業者の方が価格的には少し安かったのですが、その価格も発注先にもぶつけたところ、その発注先は価格に合わせる提案ではなく、逆に別のグレードアップの塗料の方がこちらのニーズに適していると提案し、かつ価格を若干上げるものの、競合の専業業者の上位グレード塗料に基づく価格よりも下げたものでどうかと打診を受け、結局こちらの納得するグレードの商品を使った塗料で一番魅力的な価格を提示されたものに決めました。

つまりビジネスを成約するには、見積もりは絶対条件ではなくあくまでスタートラインであるのです。最終的に顧客に買ってもらうのは目に見える商品やサービスというよりも、顧客が求める価値を満足させる解決提案であることを、自分の経験ながら改めて強く感じたのです。

ビジネスとはモノを買ってもらうことではない

企業がビジネスに成功するには、いかに自らが提供する商品やサービスが良いものか、技術やサービスの高さ、価格の優位性などを訴求して受注を目指すのが一般的かと思います。しかしここに大きな落とし穴があります。自身の強みをアピールして買ってもらおうとするやり方自体は間違ってはいまませんが、これはあくまで供給者側の論理であって、商品という「WHAT(何)」を売るという視点なのです。

ここにはお客様にとっての価値、すなわち顧客は何に対しておカネを出すのか、真に求めている顧客価値とは何なのかという視点に欠けています。つまりお客様はなぜその商品を買おうとしているのかという「WHY(購買動機)」への満足を提供するという考え方です。

もちろんお客様の動機は様々です。今何か困っていることがあって、それを解決してくれる商品やサービスを探しているわけですが、それは今使っている商品が故障ばかりしていて当初の便益を受けていないから買い換えたいという動機もあります。またもっと便利なものがほしいというときもあるでしょう。それよりもモノが便利かどうかよりも、何となく商品やサービスが心の安らぎとか気持ちよさ、楽がしたいという動機もあるでしょう。

つまり商品サービスという「WHAT」を買っているのではなく、それを買うことで得られる{WHY」を解決する満足感、即ち目に見えない顧客価値をいかにして提供するかが本質であると思うのです。

いいものさえ作れば売れる時代ではない

最近企業がいろいろな補助金申請や経営革新計画で作られた事業計画書を見る機会があります。補助金については採択された企業の計画書の事例等もアップされていますので、それを見ることで企業がどういう視点で新たなビジネスにどのように挑戦しているかについて勉強できます。

しかしつくづく実感するのは、日本企業は事業で提供するモノにこだわりすぎていることです。顧客に買っていただくのは問題やお悩みを解決する提案、つまりソリューションであることを今一度考え直す必要があるように思います。

特に製造業一般に見られる傾向として、とにかく自社の技術や設備の優位性にこだわり、精度や品質で差別化できれば高付加価値商品なら絶対に売れるはずと思い込んでいる企業が多いと感じます。

顧客に価値を買ってもらうのがビジネスの基本であるならば、何も自社で全て行うことで他社との競争優位性を実現することだけではないと思います。顧客価値を創造するには、他社が創造した商品やサービスを利用して、その組み合わせによって他社がやっていない別のサービスを作り上げたところが結局はビジネスに成功しているのです。決して自社だけの技術力などの強みや人、モノ、カネの経営資源だけでの勝負では勝てない時代になりました。

つまりネットワーク力が商品サービスを創造し、マーケティング力が顧客に的確に突き刺さる提案を提供し、コミュニケーション力が顧客の真のニーズを掴み新たな価値創造へと循環させる、この経済のサイクルこそが企業経営の成功の鍵であると確信しています。