DX推進に立ちはだかる3つの壁 ~失敗する企業の特徴~
コロナ禍がDX(デジタルトランスフォーメーション)の取組みを後押ししています。テレワークの必要性からZOOMやMS Teamsなどを活用したTV会議システムを急いで導入したことをきっかけに、「ウチも非接触型ビジネスモデルへの転換でデジタル革新に取り組まないといけない」とトップが旗振りをして”DX推進室”という新組織を立ち上げている企業が多く見られます。
ただトップ自身がDXの本質を理解せずに、このような新組織を立ち上げたところで失敗するのは明らかです。DXを単に今の仕事のプロセスをデジタル化して改善するというスタンスで取り組む限りはおそらく機能しない結果となるでしょう。
DXは企業活動の基盤でありビジネスモデル革新そのものです。かつ企業文化・風土と一体で革新しなければ成し遂げられないものという観点に立って、DX推進に立ちはだかる3つの壁について失敗する典型的な企業の特徴について述べてみたいと思います。
1.変化を嫌う従業員の心理的抵抗
まずは従業員の平均年齢が高く、特に経営幹部層が過去の成功体験の価値観から抜け切れていない企業ほど外部環境の変化に対する感受性が低く、デジタル社会への変化対応の必要性を感じていないところが多いように見受けられます。
そのために旧態依然の年功序列でかつ官僚的組織制度が機動的な変化を妨げています。組織文化的には上司の指示が絶対であり、とにかく下の意見を聞く耳を持たないところほど、この劇的な外部環境の変化に自らをどう変えていくかという提案を抑え込む傾向が強く、今までの強みがいつの間にか弱みになってしまうことの気づいていないものです。
とりわけ高齢の経営者や幹部は、一般的にITやデジタルについていけない人が多く、だからこそITに少し詳しい社員を指名してDX推進の新組織を任せるのですが、経営者自身がその価値観を共有できていないことで、正しい経営判断ができずにせっかくの新組織が機能しないところが多いように思います。
今まで上司が指示するままに受動的に仕事をやってきた従業員の割合が多いところほど、DXによって仕事や立場を失う従業員の反発と心理的抵抗が大きいものです。昨今のデジタル化に関する情報に接していますので、DXの推進は必須であるということについては言葉では理解できている人が多いです。ところが、実際DXによって今の仕事のやり方が大きく変わって慣れないことを改めて習得しなければならなかったり、極端な場合には今の仕事そのものが不要になるという可能性を感じた途端、将来に対する不安と恐怖感から心理的拒絶が強くなります。
変化にチャレンジする気概を持った従業員が闊達な働きをしているところほどDX推進が全社のうねりとなっていくのですが、成功のためにまず最初に考えなければならないのは、現場での変化に対する個人の拒否反応であることは十分理解しておくべき点です。したがってDX推進室のような新しい組織を立ち上げて本気でDX革新を成功させるには、ITに詳しい従業員だけでは不十分で、人事やコーチングの専門家も交えどう現場の行動につながるかという心理的取組みを組み入れることが重要かと思います。
2.経営者自身の鈍いデジタル感度と認識不足
従業員の心理的抵抗感を排除するには経営者自身のリーダーシップが鍵となります。しかし、DXを単なるブーム的に捉え、DXが企業の存続そのものを左右する経営に与える真のインパクトを的確に受け止めておらず、経営者自身の危機感欠如とデジタルリテラシーの低さこそが本当の問題の根底にあります。
DXをデジタル技術で既存業務プロセスの改善につなげる手段としか見えていない経営者が、いくら声高にDX推進室を立ち上げる意義を語ったところで結果は見えています。
DXのインパクトには3つの大きな要素があります。
第一が、今まで強みであった蓄積してきた技術、規模の経済、資産力、人材・ノウハウの優位性があっという間に失われることです。日本企業は日本ならではのモノづくりの優位性を発揮して成長発展してきました。それが近年一気に他国の後塵を拝するまでに凋落しているのは、デジタル技術の変化に対する自らのイノベーションに遅れたのではないかと感じます。その結果、モノづくりのノウハウのみならず、デジタル技術やデータを活用した新しい顧客価値の創出を甘く見ていたのです。
品質が良く、便利なものさえ作れば、高付加価値商品として値段が高くでもお客様は買ってくれるとの驕りがあったのはないでしょうか。昨今どんどん新たな顧客価値にはデジタルテクノロジーは切り離せないのですが、「過去の成功体験からのこだわり」こそが顧客価値そのものだと誤解していたのではなかったでしょうか。
第二が、業界の常識・顧客価値を根底から覆すデジタル技術によるディスラプター(破壊者)の席巻です。デジタルを前提とした顧客価値と革新的ビジネスモデルの台頭で新たな競争原理が生まれ、既存業界そのものが消滅するリスクがかつてなく大きくなっていることです。
UBERやAirbnbが世の中に出たとき、日本の業界や政府は自らを革新することなく、規制によって既存業界の秩序を守ろうとしました。デジタルによるシェアードエコノミーの価値革新に背を向けて、既存のタクシー業界や旅館業界の市場を守ることに注力したことで、業界に新しい価値が生まれないままに、今やコロナ禍の衝撃によって存続すら危ぶまれるようになっています。
第三が、デジタルエコノミーへ社会・産業構造が根底から革新していることです。ネット社会のイノベーションによってどんどん新しいデジタルサービス価値が生まれていますが、製造業そのものも今までのようなやり方では通用しなくなります。価値そのものが物理的なモノではなくなってきているため、その提供の仕方も、技術も大きく変化せざるを得ないのです。
DXで何が変わるのか? それは・・・・市場・顧客・組織・製品サービス・ビジネスモデル・人材スキル、育成・働き方、雇用・技術/開発・製造戦略・業務プロセス・販売チャネル、流通・マーケティング・事業戦略・金融、財務・制度、しくみ・情報インフラ・物流、つまるところ、
「全て」なのです。
3.人、組織ともに同質性が高く失敗を恐れる組織文化
日本経済がDXの失敗によって凋落していく危険性が高い国の一つであることは間違いありません。その最大の理由は日本人の特質性にあります。日本文化・風土の典型的の特徴として、「挑戦するよりも失敗しないことが重視される」ということと「成功事例がないと挑戦しない前例主義の意思決定システム」があります。
デジタルエコノミーというのは、試行錯誤の中で失敗は当たり前であって、走りながら新たな価値を創造していくことが本質です。日本人や日本企業は製品やサービスには最初から完璧な品質を求めます。不都合や不良品は頭から許せないという文化風土があります。しかし今やモノの価値はハードだけで規定されるのではなく、ソフトによって機能がグレードアップされていくことが一般的です。ソフトやアプリなどもバージョンがどんどんアップデートされることで、バグが修正されて完成度を段階的にあげるだけでなく、有料で機能アップされることも可能になっています。
つまり失敗や修正は当たり前であって、「成功することよりも失敗しないこと」の方が評価され、多様性をうまく取り入れることができない日本企業の文化・風土は、DXが要求する条件からは一番遠いところに位置づけられているように思います。
今後日本企業が生き残るには、自らの過去の成功体験とそれを支えてきた価値観から脱却し、そして失敗を恐れない組織文化のイノベーションを実践できるかどうかに関わっているように思うのです。