花屋は花を売る商売か?
昨今、DX(デジタルトランスフォーメーション)の話題には事欠くことはありません。実際、私たちの日常生活においてもどんどんデジタル化が進み、スマホ一台であらゆることができるようになってきました。
またコロナ禍を機に外出を控えてリモートワークが進み、企業経営においても非接触で事業を行うことが常識となり、顧客価値を革新していかなければ生き残れない時代へ急激なスピードで変化しています。
デジタルエコノミーの加速は、いわゆるGAFAが台頭し始めた約10年前ぐらいからその兆候がはっきりと感じられ、インターネット4.0といった頃から明らかに過去の価値観で経営を行っている企業はもたなくなるであろうというのは見えていました。
しかしとにかくIT化を行うことがDXの本質ではないと思っています。どんなにデジタル化を進展しようとも、基本は顧客価値をどう創出するかに戻ってきます。DX化については後日考えていることをお伝えしようと思いますが、本日は「顧客価値」について考えてみます。
花屋はなんで花を売っているのか
「何言ってるんだ?こんなことは当たり前。花を売るから花屋だろ!」と感じられたあなた、もしご自身が経営者であれば先行きが大変不安です。
花を求めているお客様のために、買いたいと思わせるような店舗レイアウトや品揃えの充実、そして販売促進のためにチラシを配布したり、サービスは競合に負けないから大丈夫とおっしゃられるでしょう。確かに、マーケティング戦略という点では間違ってはいないと思います。しかしこの考え方は、あくまで花というモノをお客様にたくさん売って売上と利益が上がれば良いという発想に留まっています。
ここで少し考えてほしいのがお客様は何を求めて花を買いに来られているのかということです。
「何を訊いているのかよくわからん、花を求めて花を買いに来ている以外に何かあるのか」と反応されるでしょう。でももう一度考えてほしいのです。お客様は花というモノ自体を買っているのでしょうか、何か買ったモノから得る価値があるから買うのではありませんか。
花を買う動機としては、家の中で生け花で飾ったりするためであったり、または誕生日や家族の記念日、愛する恋人に思いを伝えたいときとかイベントやお祝い事でのプレゼントなど、誰かにあげて感謝の気持ちを伝えたり相手に喜んでもらいたいときに買うのではないでしょうか。花をもらって嬉しくない人はまずいません。花を買う人はあげる人に喜んでもらいたいために買うのです。
ということは、花屋というのは、花を通じて生活のうるおいを得たり、気持ちを形にして相手に伝える「心のうるおいを提供する事業」が顧客価値の本質だと思うのです。
つまり花屋自身が自分たちの事業、商売を「心のうるおい提供業」だと認識し、それを実践するための手段として花というモノを売っているのだとすれば、がらっと事業の方向性は変わります。なぜ花屋をやっているのか、そもそも花屋という事業を行う自分たちの存在意義とは何かということまで事業領域を見直すことができれば、何も花だけ売っている必要はないのです。「心のうるおいを提供する事業」として自分たちの社会的使命に気づけば何を扱っても良いのです。それこそ人と人のコミュニケーションで幸せに感じてもらえるようなサービスは無限にあると思います。
もちろん花を通じて人生の心のうるおいを届けるためにやれることはまだまだあります。花を誰かに送りたい気持ちに寄り添い、そのタイミングに合わせて事前に花をアレンジ提案し、自動的に届ける仕組みを構築するなど、顧客が求めている価値を実現する方法はいくらでもあると思うのです。
化粧品製造業はなんで化粧品を売っているのか
私自身も化粧品メーカーとのコンタクトがあり、いかにして販売を増やしていくか、海外など新規市場開発にどうやって取り組んだら良いかなどのご相談を受けることもあります。
化粧品メーカーですから化粧品を製造して売る事業であるというのは当然です。しかし、本質は「花屋」の顧客価値に関する考え方を同じだと思うのです。化粧品メーカーは本当に化粧品という商品を売るだけの事業で良いのでしょうか。その発想に留まっている限りは、商品のそのものの素材や品質、価格という面から訴求するのが精一杯です。
そもそもなんで化粧品を製造する事業なのでしょうか。製造ノウハウがあるから、また他社と比べて良い製品を作ることができるから、といったモノで差別化できるからというのは「WHAT」で定義している事業です。それよりもなぜ(WHY)化粧品事業を通じて顧客に貢献したいのか、それはどういう価値なのかという視点を持つかどうかが決定的な差別化要因となります。
化粧品はモノを売っているようで、実際は顧客が求めているのはモノではなく、「美しくなりたい女性の生きがいを創出する価値」であったり、「美人創造業」とか「健康美や美肌の充実人生パートナー」といった価値創出を事業を通じて貢献すると定義した場合、事業のあり方自体が大きく変わるはずです。
顧客が本当に求めている価値を満たす商品・サービスを提供することが事業の本質であるとすれば、WHATで定義する商品を製造するのがメーカーの使命であると考える見方を変えるだけで、事業の可能性は無限に広がるように思うのです。何もモノを作って売ることだけが製造業の条件ではないはずです。
要は顧客が求める価値とは何なのか、それを実現するための事業であれば、何もモノを製造して販売する必要はありません。化粧品メーカーが女性の美に貢献する事業を理念とするならば、健康管理事業であっても良いですし、スポーツジムでもいいはずです。美容室やマッサージ、ヨガ教室の経営に事業を広げても構わないと思うのです。
WHATでなくWHYから始めよう
突き詰めて考えれば経営理念に立ち返ることがいかに重要かということになります。皆さんが今の事業を紹介するときに、「~の製品を~向けに製造し販売しています」「~のニーズに焦点をあてて~のサービスを提供してます」というように、ほとんどが提供する物理的な商品・サービスのメリットを中心に考えておられるのではないでしょうか。
しかし本当に顧客が求めているのは、決してモノのメリットではなく、モノを通じて得られるコトの価値というのが本質であると思います。そもそも事業を開始するときには、ターゲットの顧客に対してどういう価値をどのように提供するのかという事業ドメインを定義し、それを実現するための企業経営の理念や実現するためのミッションを考えたはずです。顧客がモノを買ってくれて利益が上がるのであれば何でも良いとは考えていなかったでしょう。ただ「お客様の喜ぶ顔をみたい」という純粋な気持ちがあったのではなかったでしょうか。
つまり事業はWHYから始めるべきものであって、その理念をいつの間にか忘れてしまい、経営が行き詰まっている企業の多くは、モノの販売と利益しか見えなくなってしまっていることが原因のように思います。