事業再構築補助金で不採択となる理由
中小企業経営者にとって今年最大の話題となっているのが、過去に類を見ないほどの最大の補助金である「事業再構築補助金」です。新型コロナ感染症の影響が長期化し、当面の回復が困難に直面している中で、ウィズコロナ・ポストコロナの経済社会の変化に対応するために、思いきった事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援する補助金です。
いろんな型のカテゴリーにわかれていますが、一般的な通常枠分類としての補助金額が100万円~6,000万円で、新規事業投資額の2/3が補助対象となります。かなり大規模な補助金です。つまり9,000万を投資してそのうち6,000万が国から支給されるわけです。
第1回公募は5月7日に締め切られ、6月中旬頃に採択されるかどうかの結果が公表されます。要領によれば4回程度の公募があるとのことです。明確な数字は公表されてはいませんが、あるコンサルタントが国会答弁の動画から類推した申請件数は約22,000件で、そのうち9,000件ぐらいが採択されるのではないかとのことです。まあ信頼性はどこまであるかはわかりませんが、私の印象では申請件数は相当多いという感じです。22,000件を約一か月間で全て審査して点数を取りまとめて採択を決めるのですから、事務局も審査員も相当の人数と労力がかかっているというのは間違いありません。
公募要領を見ればわかりますが、この補助金事業は補助金額が大きいだけに、申請にあたって提出する書類も相当の準備が必要です。補助金の主旨に沿った形での事業計画書をきちんと作成しなければなりません。認定経営革新等支援機関・金融機関も関与して策定することが求められ、その確認書と決算書なども揃えることが必要です。
事業計画書は最大15ページで作成することが要求されているということは、申請者自身が補助金を得る事業として最も重要な書類になりますので、普段慣れていない経営計画を文書としてまとめて提出されているはずです。フォーマットや字数制限がないので、言いたいことを全て詰め込んで15ページに押し込んで「これでどうだ!」とばかりに提出されていることでしょう。
先日、某胡散臭いコンサルタントが、申請を希望される企業経営者向けに、適当にWORDで事業計画や思いを書いてもらって、それを申請の事業計画書として見やすくグラフや写真でお化粧し、ビジュアルに強い事業計画書の作成サービスを売り込んでいました。そのキャッチフレーズが「サルでも出せる事業再構築補助金」。私はこれを見て、企業経営者に対しても、真剣に審査している審査員や中小企業庁の職員の皆さんを、何とバカにしたくだらない悪徳コンサルタントだと憤りを覚えました。
このコンサルタントは相当の申請件数を一か月の間に審査するということは、審査員の数を予想して一人審査ができるのはせいぜい10分だというのです。そんな10分で事業計画書を審査するにはビジュアル的にすぐにわかるように作らないと合格点がもらえない、それは中身よりも見てくれが勝負をわけるという意味のようです。
私自身は今回の補助金にコンサルタントや認定支援機関の立場で関係はしていません。しかし中小企業診断士として補助金の一部にでも関わったことがある(申請者としてという意味も含め)ことからはっきりと言えることがあります。審査する立場の人は、決して見てくれだけで事業計画書を見るのではありません。15ページの事業計画書は詰め込んで書かれてあるので、それを読むだけでも最低30分はかかるはずです。しかも過去の決算書や直近のコロナの影響による売上の減少についても理解し、そのうえで審査項目に沿って照らし合わせながら、もう一度事業計画書を読んで点数とその根拠を記載して審査されるのが正しい姿だと思います。
つまり一人の審査員が一件の審査を行うだけでも1時間以上は確実にかかるはずです。審査結果のタイミングを考えると、おそらく審査員に与えられる時間は最大2週間。しかも一件を一人で結論づけるのでは不公平が出ると思われるので、多分複数の審査員で一つの案件を審査すると推定すると、22,000件を審査するには相当の人海戦術で審査しないと間に合わないところです。実施事務局はパソナが請け負っているみたいなのですが、正直相当大変だと思います。
そういうこともあって、おそらく審査が間に合わない可能性もあり、第二期公募から申請金額1,500万以下については事業計画書の上限を10ページまでの制限がかかったという理由はここにあると思います。多分10ページに減らすことによって審査員の労力を軽減して、もっと一人あたりの審査件数を増やすことを目論んでいるのかも知れません。
不採択にはそれなりの理由がある
正しい予測かどうかわかりませんが、22,000件の申請の内、おそらく採択されるのが9,000件というのが厳しいのかそうではないのかと見方が分かれると思います。その場合採択率は2.5倍程度になるので、半分以上が確実に落ちるということになります。
他の補助金の結果も含めて考えると、そのあたりがまあ妥当なところかなという感じがします。あくまで今回の事業再構築補助金についてに限定したことではありませんが、あくまで一般論として、採択されない補助金申請にはそれなりの理由があると思います。
「完璧に仕上げたはずなのに、審査員の目は節穴か!」・・・と不採択になった企業経営者は落胆とともに怒りが湧いてくると思います。でも、今回の事業再構築補助金の公募要領を読んだ結論として、おそらく不採択になる申請は次のような不採択となる理由があるのではないかということが予想できます。逆にこの点を押さえておけば、確実にとは言いませんが、高い確率でリベンジはできるはずではないでしょうか。
1.審査項目を深く読んでいない
おそらく揃えるべき書類を必死になって準備し、これも言いたい、あれも言いたいと事業計画書の中に詰め込みすぎて、結果として公募要領に書いてある審査項目に答える内容が事業計画書に欠けていないでしょうか。審査員はこの審査項目ごとに点数をつけるのです。いくら経営者が今までやってきた事業に対する熱い思いであるとか、こだわりの商品について長々と説明してもほとんど点数にはつながりません。審査項目には、①補助事業としての適格性(要件を満たすかどうか)、②事業化点、③再構築点、④政策点それぞれ細かく項目が書かれてあります。それを明確に答えられているでしょうか。採択される事業のほとんどは、これをQ&Aの形できっちりと事業計画書に書いているはずと思います。もし不採択となったときに、真っ先に検証してもらった方が良いのがこの審査項目にどう事業計画書に記載したかです。
「問われたことに対して問われたように答える。」余計なことは書かない。10ページに事業計画が制限されたなら尚更です。
2.SWOTが表面的すぎる
既存事業だけのSWOTを分析しているだけということはないでしょうか。審査項目の事業化点に書いてあることを理解すれば、既存事業で分析するのは、再構築事業に活かせる既存事業の経営資源の強みを抽出するためだというのがわかるはずです。それよりも重要なのは、再構築事業として挑戦する新規事業でのSWOTです。おそらく不採択となる申請者のほとんどが落とされる原因は、新規事業を事業化して成功する根拠が感じられないことなっているからではないでしょうか。それは新規事業でのSWOTが甘すぎるということのためです。
既存事業がコロナの影響で苦境に陥っていることを記載されていることでしょう。例えば、インバウンド需要に依存していた飲食店が危機的状況にある、お客さんが全然こない、だから新たに店舗を開いて中食の持ち帰り事業を展開したい・・・。市場の拡大根拠といっても、一般的現象としてテイクアウトの売上が増えているというだけで、商品戦略もオリジナルメニューを開発するという項目だけ、マーケティングも新たにホームページを作ろうという思いだけ、宅配もウーバーイーツを利用したいというだけがというのでは成功する根拠は感じられないと思います。そして致命的なのは新規事業での競合分析を一切行っていない。この時点でこの申請はゼロ点ですね。
3.費用対効果が嘘っぽい
おそらく不採択となる申請の多くで見られるのは、上記の二つの条件とともに、数字の根拠が全くないというものだと思います。今回の補助金の条件には、付加価値額の平均伸び率基準であるとか、新規事業が占める売上基準があります。SWOTをまともに分析せずに作った事業計画では、売上や利益の見込みについての信頼度はほとんどありません。何の根拠もなく新規事業だけが右肩上がりで伸びていき、既存事業だけが毎年売上が一定。その結果、補助事業の適格性を満たしていると言われても、競合分析もせずにどうして達成できるのかがわからないはずです。審査員には一発で見抜かれると思います。
4.新規事業に挑戦できるような財務状況か
コロナの影響で苦境に立たされているのだから、財務的にも厳しいところが多いのはある意味当然と思われるところですが、決算書とB/SとP/Lを見れば、この会社が過去の放漫経営で今の苦境を招いたのか、それともコロナで致し方なく大変厳しくなってきたのかほとんどわかります。借金まみれで債務超過、売上減少で赤字転落して、利息だけで営業利益が吹っ飛ぶのに、役員報酬だけはしっかりと取っていて、しかも交際費は何百万も浪費しているところが申請していたら、事業計画書を読むまでもありません。銀行は本当に見ているのでしょうかね。
財務的に不採択基準があるかどうかについては全くわかりませんが。審査項目の事業化点の一つに、本事業の目的に沿った事業実施のための体制(人材・事務処理能力)や最近の財務状況等から、補助事業を適切に遂行できると期待できるかというのがあります。つまり、債務超過状態が続いているにも関わらず、しかも過大な借入金があり、手元資金も少なく、さらに売上減少で赤字が続いているような企業に、いくら補助金を突っ込んでもおそらく新規事業は失敗します。財務的にこの時点で申請する資格すらないと考えるべきでしょう。
もし私が支援する立場だったら
私自身が審査して最終的に採択を決める立場ではありませんので何とも言えませんが、経営がわかっている支援機関がきちんとサポートにつけば、上記の条件はむしろ当たり前のようにクリアするはずですし、採択率はもっと上がると思います。でももし6月中旬に予想通り半分以上が不採択となるのであれば、今後2次、3次、4次と申請される企業経営者としては、採択されるためにどういう事業計画を策定するべきか、誰に支援してもらうのが確実か今一度考えてもらえれば良いと思っています。
余談になります。これはあくまで私自身の推測ですが、おそらく採択された企業の申請で、どこが経営革新等認定支援機関として申請したかどうかを調べてみると面白いと思います。怒られる方がおられるかも知れませんが、とある補助金(必ずしも今回の事業再構築補助金というわけではなく)の審査を行った知人から聞いた話で、一番採択率が高い支援機関は中小企業診断士だったとのことです。一方、不採択の審査をした案件で認定支援機関がどこかチェックするとかなりの率で税理士や取引銀行であったというのは偶然でしょうか・・・。まあ認定支援機関の内7割近くが税理士なので当然かも知れません。
何故だと思いますか? それは中小企業診断士の試験は、「問われたことに対して問われたように答える」鉄則を守らないと合格しないからです。それとSWOT分析から経営戦略を策定するのが診断士業務の基本中の基本であって、普段から企業支援時の経営戦略の思考回路が身についているからです。また数字に裏付けがないと気持ち悪くて仕方ない職業病を持った人たちですので。