Insta360に学ぶ顧客価値
世の中がどんどん変わっています。日本中が連日コロナに振り回され、毎日テレビは今日の新規感染者数は何名と煽り立てる間に、日本は世界から取り残されている状況が見えなくなってきている気がします。
SNSを使いこなし、動画を発信している若い人たちにとっては知っていて当たりまえのことかも知れませんが、Insta360という360度の撮影ができる小型のモーションカメラのことはご存知でしょうか。
デジカメの一つには違いないのですが、今までのコンパクトデジカメやミラーレス一眼などのカメラ製品とイメージしている人たちにとっては、カメラの常識を根底から覆すのがこの360度カメラです。もちろんこういったモーションタイプのカメラは数年前ぐらいから世に出ており、いわゆるGoProといった軽量でかつ動画専門のカメラとして徐々に広がっていたカテゴリーなのですが、この一、二年ほどで急に人気が広がってきました。
臨場感のある動画シーンに長けており、スキーやバイク、山登りなどでVLOG用に最適な軽量で気軽に撮れるカメラです。カメラの使い方も静止画が主体のデジカメと、いわゆるVTRから派生した動画撮影のムービーカメラで記録して再生を楽しむといった感じで、カメラのハード面から技術的に発展してきました。
日本の技術的優位性もモノづくりの強みであったり、品質の高さといったハード面の技術力を培ってきた賜物でした。ところがこのモーションカメラは、今までとは全く土俵の違う商品価値が問われ、日本以外の国が市場を席捲しています。一部SONY一人が気を吐いていますが、キヤノンやニコン、パナソニックを含め日本のカメラメーカーや家電メーカーの影は見えないのです。
モーションカメラの価値観はメーカーと顧客の共感から
Insta360は中国で2014年に創業した深圳嵐ビジョン株式会社が作った360度のVRカメラです。5Gの世界に入るとかなりの領域がリモートで実現可能となります。製造現場でも、建設工事現場でも、医療・介護、修理保全あらゆる世界でリモート化が進んでいくときのキーデバイスはモーションカメラであり、人間の目と同じように機能するウェラブルカメラへの高度化です。
この世の中の変化を先取りし、素早く事業化して顧客価値を実現する商品を次々に出した結果、短期間で360度カメラ賭して一気に世界一の企業に踊り出ました。ハード面の技術開発においては、今まで世に出ている基本技術の積み重ねや組み合わせで十分可能なレベルのものです。
しかし、中国の若いエンジニアが創業したベンチャー企業が新しい市場を創造できたのに、日本の老舗カメラメーカーやエレクトロニクスメーカーが挑戦する意思もないというのはいったいどこに要因があるのでしょうか。
Insta360は非常に面白そうなわくわくする商品です。思い描いていたこんな使い方、あんな楽しみ方を実現できそうな世界を提供してくれるのです。
今、大切にしたいと思われている価値とは、人と人との繋がりであり共感です。だからこそ、人々はSNSを通じて面白いとか感動したことを情報として発信し、共感を得ることに大きな顧客価値を覚えるのです。しかもその共感する情報の主体はインスタグラムやYouTube、Twitterなどを通じた動画に急速シフトしています。数百文字の情報よりも画像であり、百枚の静止画よりも10秒の動画なのです。
Insta360が急速に市場が拡大した要因を分析すると面白いことに気づきます。日本のカメラメーカーが市場に出す商品にはこれでもかというほど分厚いマニュアルが入っています。でもプロでない限りあまり見てもよくわからない言葉で書かれてあります。商品スペックについていくら詳しく情報発信するのは典型的なメーカーの発想です。
しかしInstra360もiPHONEも同じなのですが、商品に詳しい商品マニュアルは含まれていません。ボタンの数も非常に単純で操作自体は簡単なものです。そうすればどうやったら面白い使い方ができるのでしょうか。実は、この商品の魅力を感じたユーザーがどんどん楽しみ方や、カメラ―の使い方の説明、他社製品との比較で良い点、悪い点を次々と動画にしてアップしているのです。
つまり顧客価値をメーカーと顧客が共創しているのです。こんな使い方がある、こんな楽しみ方がある、こんな素晴らしい動画取れると、動画SNSに投稿するわけですから宣伝効果抜群です。メーカーもこの分野のユーチューバーで製品を無償で提供してどんどん評価動画をアップしてもらうマーケティング戦略を実践しています。
このユーチューバーが発信する動画を見ることで、自分のライフスタイルに合うかどうかについて共感を覚え、買いたいと思わせるのです。決してメーカーが大々的にメディア宣伝を行っているのではないのです。
写真のカメラは最新製品のInsta360 Go2というもので、わずか27グラムの親指サイズで手振れ補正が強力で、世界最小のアクションカメラとしてどんなところにもウェラブルとなっています。帽子につけられることでゴルフやテニス、スキーなど生々しいプレイ中の動画が撮れますし、自転車やバイク、ドライビング中のVLOGでSNSにアップできます。磁石でTシャツの上に貼り付けられるので街歩き動画も撮れ、360度アングルからの映像は自撮り用ハンドグリップをつけるとドローンのような空中からの迫力ある視点で撮影が可能です。しかも4M防水なので水中の画像も撮れるのです。
SNSをやっていない人にとっては何が面白いのかわからないかも知れませんが、多くの人々にわくわく感を与える商品というのは、決して技術の優位性だけから生まれてくるのではなく、顧客の感性との共感から生まれてくるものだと思うのです。
Insta360は顧客が発信するインプレッション動画を見ることで、新たな使い方や顧客が望んでいる機能などを入手し、さらに改良を重ねることができます。そのマネジメント手法が新たな顧客価値を生み、短期間に新市場を席捲する地位を確立できたのです。
遠隔操作によるリモートが常識化しているB2Bにおいても、このウェラブルカメラの価値をどう顧客と共創していけるか、メーカー視点のモノづくりのあり方を見直す必要性があるのではないでしょうか。