財を遺すは下、仕事を遺すは中、人を遺すは上とする
野村克也さんが亡くなりました。私が物心ついたころは南海ホークスのスター選手で、父に初めて生の野球を大阪球場に連れていってもらったときに見たのを鮮明に覚えています。現役を引退されてからは、プロ野球監督に就任され、チーム組織や選手を育て優勝請負人として多大なる功績を残されました。私自身の社会人としての経験を重ねていく中で、人生の在り方という点でも大きな影響を与えた人物の一人でした。
共感した名言
野村さんは書籍やテレビなどの解説を通じて多くの名言を残されています。その中で、共感を覚えた言葉の一つに、「財を遺すは下、仕事を遺すは中、人を遺すは上とする。されど財なさずんば事業保ち難く、事業なくんば人育ち難し」というものがあります。これは野村さんのオリジナルの言葉ではありません。もともとは明治の偉人である後藤新平が残した「金を残して死ぬのは下だ。事業を残して死ぬのは中だ。人を残して死ぬのが上だ。」と言われています。
私がコンサルタントとして開業して以降も、座右の銘として企業経営支援においても同じく重要な言葉となっています。企業経営にとっては、利益を生み出し、事業を成長発展させることは当然です。しかし、それ自体が目的であってはいけないという思いは、現役時代から経験を積むにつれて強くなってきました。企業経営者にとって社会発展に貢献していくには、人材を育て次世代につないでいくことが何より大切です。利益を生み出しても、事業を拡大発展さえても、それらを支えるのは全て人だということを考えれば、企業にとっての究極の目的は人づくりに他ならないからです。
人材育成支援の基本的概念
海外展開支援専門の中小企業診断士として、毎年国内外の多くの企業との関係が広がっています。経営支援を求める企業経営者のニーズは、事業拡大やそのための海外販路開拓であったり、資金繰りを含めた財務問題への解決など多岐にわたります。ただ、私自身が支援の中心においているのが「人」です。企業にとって人づくりが生命線です。その考え方を軸に海外展開支援のコンサルティングを進め、外部機関でのセミナー講演を進めていくにつれ、企業経営にとって次世代につなぐ「人材確保・育成」に関するご依頼が増えています。
独立開業して、ベトナムに限らず日本企業のグローバル人材育成研修や、大学での国際ビジネスにおける人材育成に関する講義が仕事の過半を占めるようになりました。経営者やグローバル人材育成を対象とした研修では、「経営理念」を軸に、経営幹部のリーダー能力や経営者としてのスキル開発を通じ、自己革新マインドの気づきを醸成することで組織経営力強化につなげることが重要です。
その人材育成支援において、研修が成果につながるかどうかは、一人ひとりのマインドにかかっています。新しい知識を学んでもらう研修ではほとんど効果がないといっても良いでしょう。自分で何を変えていくべきかの革新マインドに気づきを得ることこそが研修の本来の目的になります。
経営者やグローバル人材を対象とした研修で、その根幹においている考え方が「財を遺すは下、仕事を遺すは中、人を遺すは上とする。されど財なさずんば事業保ち難く、事業なくんば人育ち難し」です。企業幹部責任者にとって、利益を上げて売り上げを拡大することが与えられた唯一のミッションではないということから話をしていきます。そのうえで、経営者は次世代を支える人をどう作りつなぐかということで評価されるということを話し合います。
その人を育てるためには、幹部責任者としてどうすればよいのでしょうか。これを徹底して議論してもらいます。
でも、その研修では、人を指導し教えるテクニック、評価するスキルを学んでもらうことはほとんしません。「部下に一つひとつ仕事を教えるのは皆さんの仕事ではない」といいます。というとほとんどが怪訝な顔をされます。「人を育てるのが上に立つものの責任だと言われたじゃないですか」と反発を受けます。
でも、私はこう言います。
「皆さんの責任は次世代に事業をつなげられる人を育てることです。でも、皆さん自身で仕事のやり方を手取り足取り教えることではありません。その肝は・・・人を育て、最大限能力を発揮される場を提供できる人を育成するのが皆さんの責任です」 ・・・意味わかりますか?
海外では特にこの考え方が重要です。結局は、ローカル社員が自立して経営を実践できる能力とモチベーションを持てるようにならないと早晩会社はつぶれます。いつまでも日本からの出向社員の指示通りにしか動けない社員としか仕事ができない会社では競争に勝ち残ることはできません。「人を育てられる人をつくる」・・・人こそが未来につなげていくための経営の根幹だと信じ、今後とも企業の海外経営支援を続けていきたいと考えています。