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外国人雇用における在留資格制度の運用課題

少子高齢化の加速による労働力不足が顕著になる中、外国人労働者の数がうなぎ上りであることは、日常生活上もコンビニなどあらゆる場面で外国人とかかわりが増えていますし、実際企業においても働いている外国人が増えていることがごく一般的な状況になっています。

一方で、不法滞在の外国人が増えているとか、外国人雇用で資格違反があって強制送還されたり、企業が摘発されたりするニュースも見聞きすることも多くなりました。ただ実際、どのような外国人が合法的にどんな資格で入国を許可され、いったいどれだけの外国人がどんな仕事をしているのかという実態をわかっている人は限られています。事実、ひとくちに外国人といっても、すでに帰化して日本国籍を得た外国人もいれば、朝鮮半島出身者で帰化していない在日の人も一定数いますし、日系人移民で日本に永住者として戻ってきている人、また留学生でコンビニでアルバイトしている人もいれば、いわゆる技能実習生として何年間か企業や農業で従事している外国人が相当数います。あるいは企業の海外現地採用で日本勤務していたり、大学教授や医者、弁護士や俳優、歌手などの芸能関係、外国料理のコック、宗教関係者や企業経営者、投資家など、広範なフィールドで外国人が就労しています。

しかし、外国人が日本で働きたいと思って申請すれば、問題なく在留許可、いわゆるビザが下りるわけではありません。在留許可には出入国在留管理庁が細かくルールを決めて審査して許可を出しているのですが、実態は非常に複雑怪奇になっており、行政書士の専門家が支援しなくては許可が出ません。また、実態としては、就労許可を取るのが難しいだけでなく、観光目的でもノービザで入れる国は限られており、ベトナムなどは仕事で企業を訪問したり観光するだけの目的でのビザすらも、受け入れ先の招聘状が必要であったり、入国から出国までのスケジュールや滞在先ホテルなど細かい旅程を出さないとビザ発給を拒否られることも多いのです。

在留資格には非常に多くの分類があり、企業が外国人雇用で人手不足を何とかしようとしてもそう簡単にはいきません。実際外国人は現在約146万人が在留資格を得て合法的に就労しています。中小企業のニーズとして単純労働力を何とかしたいということから、本来の主旨とは異なる技能実習生で外国人を受け入れたり、留学生として日本に来ている学生のアルバイトを活用するケースが多いですし、実際街でよく見かけるこれらの外国人が60万人います。

一方、ワーカーではなく技能承継や経営人材にも高度な外国人採用のニーズも高まり、いわゆる大卒の高度スキル人材に対する在留資格の領域があり、そのうち約8割が「技・文・国」といわれる技術、人文知識、国際業務の高度スキルで資格を得ています。これら高度人材として資格を得ているのが約30万人います。

その他に、外国人籍のままでも就労制限の全くない定住者、永住者や日本人の配偶者は身分に基づく在留資格として50万人ほどおられます。

しかしながら、これでも外国人雇用のニーズを満たせません。インバウンド需要の高まりや介護や看護師などの高齢化社会に対応するための労働者増を図るためにも、新たな在留資格を設けて外国人の在留許可を増やす動きになってきたのが、新在留資格としての「特定技能1号・2号」であり、特定活動といわれる在留資格を与えて特定の仕事につけるの範囲の拡大を行っています。

新在留資格の現状と課題

特定技能は昨年の4月から運用を開始、今までEPA協定に基づく外国人介護士や看護師、ワーキングホリデーなどに与えられていた特定活動を拡大して、いわゆる「特定活動46号」規定として、インバウンドの外国人訪問者に対する翻訳、通訳業務や接客業務活動に対応した在留資格拡大が5月以降に適用となりました。

しかし、その後半年以上が過ぎているのですが、できる限り制限をかけたい入管の本音が根底にある運用であるため、実際にはほとんど許可が下りていません。ただ、その原因は外国人の在留資格審査をきちんとやっているからということもあるでしょうが、あまりにも複雑にしすぎたために、企業にとっても手間暇がかかって使いづらい手続きとなっています。かえってコストアップにつながったり、働きたい外国人自身にとっても、障壁が高すぎるため、そこまでして日本で働くよりは他の国に出稼ぎにいこうと思う外国人が多いため、応募そのものが少ないという本末転倒の制度になっているのが現状です。

「特定技能1号・2号」は特定分野の人手不足対応のための資格制度です。つまり高度人材ではない非熟練人材を対象としています。当初は仕事の範囲において厳しく制限がかかっている技能実習とは異なり、多能工的な就労も可能となり、技能実習に代わる新たな資格制度として、人材不足の業界からは大いに期待されていました。2019年4月に運用開始となって、同年中に3.3万人~4.8万人が受入れ人数目標とされていました。5年間で26万人~34万人を目標としていたのです。

しかし半年たった2019年10月時点で、この在留資格が与えられたのは全国でわずか616人でした。国は大々的に新資格制度の導入に向けて、民間による登録支援機関の認可も促して全国でセミナーを繰り返していました。登録支援機関としてのビジネスが成立するかどうかわからないままで、多くの人材紹介会社や技能実習の監理団体が登録申請を行って体制を整えてきたのです。ところがほとんど在留資格許可実績がないのです。国の役人は机上で制度を考えて設計するため現実とのギャップが大きく、その仕組みがどう動くのか現場感覚が鈍いためこのようなことが起きているのだと思います。登録支援機関として支援人材を揃えて、そのコストを回収できない状況が続けば、この制度は根底から崩れてくる危機感が国には全くないのが残念です。入管庁のインタビュー記事を見ても他人事のような感覚を受けました。

それではなぜ当初のプラン通り特定技能の資格取得が遅れているのでしょうか。

一番の問題は、この資格の本来の目的は特定業界への非熟練人材の雇用に向けた在留資格であるにもかかわらず、資格審査に日本語能力試験と技能知識の試験を条件としたことにあります。非熟練人材が在留資格を取る前に、日本語検定(N4レベル)の能力を持っている人など皆無です。一方、技能実習生の場合、企業が採用決定後ビザが下りるまでの期間に、送り出し機関が日本語教育を施すことはやっていますが、在留資格の申請時点で能力審査試験を行うことは愚策としか言いようがありません。

この日本語試験と技能試験に通らないと在留資格が取れないわけですから、そこまで勉強しないと出稼ぎの申請すらできないなら、台湾や韓国に行くという人が多いのも頷けます。またこの試験実施に向けて試験の作成や現地での体制ができていないため、日本でしか試験を受けられない国や業界分野が多いのです。これはお笑い話としか言えないのですが、現地で試験をまだ受けられないので、日本で実施する特定技能1号の在留資格申請のための試験を受けるために、日本への渡航ビザを申請したら、そのビザ発給すらも出なかったと聞いたときには耳を疑いました。

入管は当初は技能実習生修了者には特定技能の在留資格切り替えには試験免除の制度としたので、多くは日本で3年勤務した技能実習生の多くが申請するものとタカをくくっていた感じがしています。ところが3年の技能実習後に最長5年の特定技能で日本で仕事をしたいと思っても、家族帯同が許されていません。つまり結婚しても配偶者と別れて暮らせなければならないのが最長8年も続くなんてことは、自分の身になったらいかに酷い制度か、申請する気など起きないことなど役人には推し量る感覚もないのでしょうか。確かに技能実習終了時に幾分かの実習生が特定技能に切り替え申請をしたようですが、資格審査書類が多すぎ条件が厳しすぎることに加え、技能実習時の申請書類も全て細かく調べられることで、技能実習時の資格そのものにも問題がある実習生が多く散見され、許可が認められなくなったケースがあったようです。

そもそも技能実習生として在留資格を得るには、基本的に過去本国において、日本の実習先での認可作業と同様の職歴がないと認められません。ところが出稼ぎが本音ですから、職務経歴書に嘘が多いのです。当然職務経歴の証明書を準備しないといけませんが、現地では公的書類ではないので、適当に仕事もしたことがない内容を記された偽造の職務経歴書で申請する人が多いのです。入管も現地調査して、職務経歴に嘘があるかどうかまでは確認できませんので、実際には偽造が横行しています。しかし、本人も嘘の職務経歴を覚えていないのがほとんどです。また、新規の在留資格である特定技能の申請時には、技能実習生としてのビザのお世話をした送り出し機関や監理団体はその時点で関係者ではなく、当時の申請書類など細かいことは知らないため、入管が申請書類を確認し、本人と面談するとすぐに嘘がばれてしまうのです。

そういったことが複雑に絡み、結果として本来目指した新在留資格を生かして外国人労働者を活用しようという目論見が進んでいないのです。また今後、今の制度では外国人労働者の在留資格審査ではカバーできない仕事が多く出てきます。今まで何とかバイトで対応していた旅館や飲食店の現場人材では絶対的に不足しています。外国人観光客のインバウンド需要に対応するには、高度の技能を持った大卒留学生を採用したいという要望も強く、昨年5月から例外に対応するための「特定活動46号」という資格を広げました。しかし、これまた複雑でハードルを上げているのです。非熟練人材ではないということから、日本語能力に何とN1の合格を基準にしたのです。N1の日本語検定に合格できるのはほんの一部です。日本人でもこの検定に合格するのは至難の業です。検定問題を見たことがあるのですが、日本人でも回答に迷う問題も多くあり、国語能力が高い人でやっと合格できるようなものです。N1合格者のみがインバンド対応する翻訳、通訳、接待業務につける人しか在留資格を与えないという制度が本当に機能するのでしょうか。

もっと現場を見て勉強しろ!と入管の役人には言いたいのです。多分東大卒の役人がいろいろと法律や制度を考えているのでしょうが、現場を知らない官僚ほど手に負えないものはないと思うのです。