次世代の人材育成は未来へのパスポート
私は今、間違いなく人生の晩年に差し掛かった時代を生きているわけで、お世話になった方や同期年代の知人の訃報に接する度、私自身に残された時間がいつ終わるかわからない中、人として死ぬまでにやるべき与えられた使命について考えることが多くなりました。
早期定年退職後に、企業の海外展開支援のコンサルティング事業を行ってきましたが、支援先企業が単に成長発展するためよりも、むしろ次世代に人材をどう残すか、そのための貢献に関連したテーマに沿った仕事をいただくことが多かったように思います。
人材育成については、ベトナム人の経営者人材の研修に始まり、企業のグローバル人材育成や赴任前研修、大学での経営学部での国際ビジネス講義など、研修や教育訓練に関する依頼が多かったのですが、一方で関係機関との協力を通じ、子供たちへの科学や環境に関心を持ってもらうための実験ワークショップ開催をコーディネートする仕事も増えてきました。
次世代の国、社会を担うのは今の子供たちであり、これから生まれる世代です。しかし、今を生きる私たちは彼らに自信をもってバトンタッチできるでしょうか? 持続可能な社会をつなげられると胸を張れるでしょうか? 私たちは先祖が残してくれた資産、技術によって今の文化的な生活を享受できています。もちろん前の世代が残した負の遺産に苦しんでいることもありますが、今の世代は次の世代に、確実に今まで以上の負の遺産である「少子化社会」を残してしまうのです。子供を多く残さなかった私たちが悪いと批判するつもりはありません。経済が発展し社会生活の水準が上がってくると、少子化は当然の帰結であり、GDP成長率も鈍化します。環境問題も複雑化していきます。
私たちが残す次世代への資産は、決してお金や物理的なインフラだけではありません。お金や社会生活基盤を残すことは重要な世代間のバトンタッチです。しかし、もっとも重要な資産継承は無形資産であり、中でも「教育によって優秀な人材をいかに残せるか」に勝るものはありません。教育の基本がねじ曲がったりすると、国・社会はとんでもない方向にいってしまいます。国民一人ひとりがきちんとした教育を受けなかったり、偏向的な思想を植え込まれると、常に自分自身の考え方が世界の中心であって、本来人としてどうあるべきかがまともに考えられない国民が大多数となり、最悪の場合、国自身が滅んでしまうことにもなりかねないのです。例えばどの国の教育がおかしいかということはあえて言いませんが、環境問題や宗教問題においても、お互い分かり合えない人間同士で常に争いが起き、それこそ人類そのものを滅亡させかねないのが教育であろうと思うのです。
しからば今の日本は正しい教育を行っていて、胸を張って次世代人材を育ててきたかということは真摯に反省しなければならないと思います。国が教育にお金をどれだけかけているかというOECDの調査によると、先進国の中では最も低いという信じられない結果が出ています。文科省の教育行政が悪いといってしまえばそれまでですが、国全体から考えると、6・3・3・4制の基本的な教育システムに寄りかかっていただけであり、その実際の教育の中身について、教育の自由の名の元、あまり深く国家戦略としての教育について、国民一人ひとり、また企業それぞれ自身のかかわりが弱かったのではないでしょうか。あまりにも学校に任せっぱなしであったような気がします。今、私は大学の非常勤講師に携わっていますが、実際今の大学のカリキュラムが、高等教育に相応しい内容かどうか、ちゃんと精査できているのか疑問に思うことが多くあります。
次世代の人材育成は国・社会の未来への発展を左右するパスポートです。国や教育機関に任せる教育では正しい方向に国・社会は発展していかないことを痛切に感じます。もっと、もっと、もっと、企業は次世代の人材育成に貢献するべきです。自社の社員教育だけやって、十分人材育成に貢献しているとはいえません。次世代の社会を担う、いまの子供たちの教育に企業として何ができるか、何をやるべきか、今一度真剣に考えてもらいたいのです。
特に子供たちへの重要な人材育成課題は、「科学」と「環境分野」と思っています。サイエンスとエコテクノロジーを支える次世代人材を輩出する教育に社会全体がどれだけ努力を傾けているかが、将来の国・社会の基盤を左右するという思いが日々強くなっています。
企業は未来社会の発展につながる公器としての社会的責任を果たすべきです。経営者として儲けるために社会が教育投資して育ててくれた人材を雇用するということは、社会が育てつないでくれた人材の能力を借りて事業をやっているのです。そして社会や企業が創出した付加価値を利用して利益を出しているのに、企業は納税と雇用だけで本当に社会に貢献しているといえるのでしょうか?
未来に価値を残し社会発展への貢献は、ほとんどの企業にとって基本の企業理念であるとことが多いと思います。最も重要な経営成果は利益ではありません。人をいかに育成して次世代に残すか、これこそ私たち今をいきる人々が真剣に取り組まなければならないと思います。今の世代は人口を減らしているのですから、その分人の質を上げることに貢献しないと、国民としてそして企業人としてあまりにも無責任ではないかと思うのです。
地域の子供たちの幸せ、成長のために、皆さんの会社は何で貢献していますか?
企業スポーツに力を入れている企業の皆さん、子供たちにスポーツを通じた人間形成を教えていますか?
環境関連製品を販売している企業の皆さん、子供たちに環境の大切さを教える何か活動をしていますか?
銀行や金融関連の企業の皆さん、おかねの大事さについて学校で教えたことがありますか