このページはJavaScriptを使用しています。
ご使用中のブラウザはJavaScriptが無効になっているか、JavaScriptに対応していません。
サイトを正しく表示、ご利用いただくには、
JavaScriptを有効にするか、JavaScriptが使用可能なブラウザでアクセスして下さい。

技能実習法運用における異常性

技能実習制度にはさまざまな問題が露呈してきています。そもそも本来発展途上国の産業人材育成貢献のために始まった技能実習が、昨今の人手不足の格好の受け皿として企業が活用する実態があります。その本音と建て前の挟間の中で、いろんな労務管理上の問題がクローズアップされ、受け入れ企業の労働基準法違反の問題や劣悪な職場環境の問題に対応するべく一昨年の法律改正で技能実習法が成立し、技能実習の適正な実施と技能実習生の保護を図ることを目的として,技能実習計画の認定や技能実習生に対する相談・支援などを行う「外国人技能実習機構」が設立されました。 しかし、目的は立派ですが、実際には厚労省、法務省による認可権限をかさに管理権力をふるう天下り機関を作ったに過ぎないと思っています。

今回、外国人労働者の活用を増やすにあたって「特定技能資格」を柱とする新たな在留資格制度が入管法改正で成立しましたが、本来外国人労働者を増やす政策と、国際貢献を目的とする技能実習制度を適性に運用する政策とは本来別のものであるべきです。しかし、新たな在留資格制度では、5年の経験を経た技能実習生を「特定技能資格」として10年までの在留を認めることによって企業の人手不足に資するように設計されており、この全体を管理するために「外国人技能実習機構」による実習の管理監督、認可権限の範囲をさらに拡大していくことの動きが既に出ています。

三菱自動車やパナソニックに対する外国人技能実習取消の異常性

先週の新聞やネットでのニュースを見てびっくりしました。外国人技能実習生に対して逸脱した作業をさせたり、従業員に違法な長時間労働をさせたとして、三菱自動車やパナソニックなど4社の実習生計136人の計画認定を取り消したというものです。各社は今後5年間、実習生の新規受け入れができなくなり、4月に施行される新在留資格の「特定技能資格」の外国人労働者の受け入れもできなる見込みとのことでした。

私は当初、これらの企業は技能実習法に違反し、労働法規にも違反する過酷な労働を実習生に強いていたことで、仕方なくペナルティを受けたとの印象を受けました。まあ地方の工場での労務管理には甘いところもあるので、大きい会社ではあり得る話と思ったのです。しかし、記事をよく読んでみるとどうもそうではないのです。

まず三菱自動車とパナソニック、そしてその他の会社では実習計画の認可が取り消された理由というものが全く違います。しかも、技能実習生の労務管理に問題があったというものばかりでもありません。

三菱自動車では、本来溶接作業の実習計画で受け入れていたフィリピン人に部品組み立ての作業をさせていたことが原因とのことで、入管や監督機関が立ち入り調査をしたところ、そもそも実習生全員の溶接作業を行える設備がなかったことが判明して、実習生28名の内、27人の認定を取り消して、一人のみの分の実習を認める改善命令を出したというものです。ここに本音と建て前の大きなギャップがあります。普通、外国から呼んだ実習生に、ずっと何年も同じ溶接作業をさせ続けるほど仕事が固定していることはあり得ません。3年も5年も経つと企業の経営環境はガラッと変わります。組織変更も行われます。企業とはそういうものです。しかし、技能実習生に対しては多能工的なスキルを学んでもらうことは技能実習法では想定されていませんし、他の作業をさせるとその時点で在留資格違反となります。「外国人技能実習機構」は毎月計画と実施報告を企業に求め、技能実習計画との違いが立ち入り等で発覚すると認定取り消しとなってしまうのです。実習生は在留資格を失い帰国しなければなりません。これがきっかけとなって失踪してしまうことにもなりかねないのです。もっと実態に合わせた技能実習の運用が必要ではないでしょうか。

一方、パナソニックの問題は全く別の事案です。同じく技能実習の認可が取り消されてしまったのですが、原因は技能実習生の実習そのものではありません。パナソニックの数ある地方工場の一つで、日本人社員に対して月最長138時間の違法残業をさせたということで、労働基準法違反の罪で法人に対して30万円の罰金刑が確定したために、労働関係法令に違反した企業は外国人実習ができないということで82人が取り消されたというものです。

確かに労働基準法違反の罪が確定したのは事実ですし、それを不当というものではありません。しかし、そのことと外国人実習計画を取り消すということを連動させるべきものでしょうか。労働管理に問題があるということには異論はありません、実習そのものに労働関連法令に違反がない場合にも拡大運用するのはいかがなものでしょうか。結局、真面目に働いている外国人実習生の気持ちを考えず、国際貢献の意味も考えず、監督官庁自身の認可権限を振りかざすことの方がよほど異様に映ります。

三菱自動車もパナソニックも今後5年間外国人技能実習生を受け入れることができなくなり、新在留資格の特定技能資格での外国人労働者の採用もできなくなるというものです。どうも腑に落ちません。

さらにもっとびっくりするのが、その他の一社である建設業のダイバリーという会社も実習生3人分の取消処分を受け、その理由が役員の「相続税法違反」というものです。こうなってくると何でもありになってきます。法人としてまた法人役員として何らかの罪に問われた時点で、技能実習が取り消されるだけでなく、今後矛盾だらけの技能実習制度を柱にした新在留資格制度で、企業に対して外国人雇用拡大の道を閉ざしてしまうのは異常としか言いようがありません。

一旦、許認可権限をふるうことができる天下り機構を新たに作ってしまうと、規制をガチガチにかけることが仕事をしていると錯覚する役人の巣窟になります。彼らは自分たちが正しいことをしていると思い込んでいるので余計たちが悪いのです。

最近、経済同友会では、「将来的には、技能実習制度と特定技能の在留資格の制度は接続させず、 それぞれ独立した制度として運用すべきである。技能実習制度は実習のニーズ の有無を踏まえ、廃止も視野に入れた見直しの検討が必要である」とのパブリックコメントを出しました。(引用: https://www.doyukai.or.jp/policyproposals/uploads/docs/6957ef7c25f824dd5c8d61968d911f37c2c83948.pdf )
全くその通りだと思います。でも、一旦天下りの機構を作った「外国人技能実習機構」にとっては、技能実習制度の廃止を視野に入れた見直しの意見など全く聞き入れないでしょうね。