シェアリングエコノミーの流れは止まらない
民泊で有名になったAirBnB(エアービアンドビー)や配車サービスのUberやGrabタクシーは、日本では規制が厳しくなかなか進んでいません。この背景にはホテル旅館業やタクシー会社など既存業者が仕事を失う恐れからの抵抗と、業界秩序を守ることが消費者の利益になるという発想から抜けきらない規制官庁の存在があります。このようなシェアリングエコノミーによる新業態を認めない理由として、サービスの質が低下するとか、事故が起きたときの責任所在などが不明になり消費者のためにならない「恐れがある」というものです。
何か変革が起きるときに抵抗勢力が使う常套文句としては、ほぼ「恐れがある」という言葉を使います。変革によって大多数が大きなメリットを受けるものであったとしても、一部の少数派が既得権益を失う可能性が1%でもある場合、殺し文句である「弱者が被害を被る恐れがある」「~の懸念がある」という論理で、いかにも大多数のためにならないかのように事実を偽装することが多いのです。昨今のマスコミが政府与党を貶めるためによく使う手段です。
ベトナムのタクシー状況の変化
以前のコラムで、ベトナムで配車サービスのUBERが広がっていることを驚きを持って述べました。シェアリングエコノミーの衝撃として、世の中の動きの速さにいかにして対応していくことが重要かをつくづくと感じました。
一か月ほど経って、先月改めてベトナムに出張した際にその考えはさらに強くなりました。何となくですが走っているタクシーが減っている感じがしました。また一年前と比べて同じ場所に立ってタクシーを掴まえようとしても、流しのタクシーが少ないのです。いつもなら通りに立てば、ほぼ途切れることなくタクシーが目の前を走っているのに、10分経っても掴まらないことが多かったのです。
一方周囲を見ますと、GRABタクシーやUBERのシャツを着たバイクが人を乗せて走り回っていました。元々ベトナムではタクシーよりもセオムというバイクタクシーを利用する人が多かったのですが、セオム自体、個人のバイクで小遣い稼ぎ的なものまで吹き飛ばしてしまうほど、配車サービスが広がりを持っているのです。
流しのタクシーが少なくなったことについてベトナム人に聞いてみますと、やはりUBERなどの広がりによってタクシー会社の業績が急に悪化しているとのこと。また、タクシーの運転手も収入が急減しているので、運転手の仕事を辞めたり、自分で借金して車を買って、自らUBERの運転手としての仕事に転じたという人が増えているらしいのです。
実際にUBERを使ってみて納得
今回UBERのアプリを携帯に入れてUBERを使ってみました。なるほどこれでは既得権益側は吹っ飛ぶと感じました。すべてスマホでできるのです。まずUBERのアプリを立上げると、自分がいる場所が地図上は表されどこに行きたいかを入力します。地図上のポイントを指すことも可能です。そうすると自動的にルートが地図上に示され料金が表示されます。そしてバイクか車かを選ぶと、自分がいる場所の近辺に待機している車の場所が出てきます。その車ごとに運転手の名前と写真、車の車種と登録ナンバーがでます。その運転手の送迎実績数や評価ポイント(ここがすごい)も確認でき、指定で配車ボタンを押すと、自分がいる場所までその車が向かってきます。今、どこまで来ているのか、あと何分で到着するのか、リアルタイムでスマホに表示されるのです。そしてピックアップしてもらい、あとは目的地に着いて当初の表示通りの代金を払います。ここから凄いのが、降りたと同時に運転手が送迎完了ボタンを入力してすぐ、私宛てにUBERから領収書がメール送信されてきて、同時にその運転手の5段階の評価ボタンを押すようにUBERアプリが起動するのです。
このようなシステムですから、質の悪い運転手は自動的に排除されますし、ぼったくりもなく、しかも普通のタクシーと比べて料金はほぼ半額に近いのです。これでは既存のタクシー会社はとても対抗できません。町のタクシーが減っている理由も納得しました。
ただ、問題はいくつかあって、事故が起きたときの責任や保険の問題などは残っていますので通常の会社では業務には使いづらいところです。それと外国人にとっては、ベトナム語ができないことで、待ち合わせポイントの確認電話で指示することが難しいことがあります。
シェアリングエコノミーの新経済の息吹をどう活かすか
それでも、この動きは政府の規制や既存業者の抵抗だけではもう止まらなくなっているのではないか、むしろこれを新たなビジネスチャンスとして捉えることができる人のみが生き残っていけるのではないかと感じます。
事故のときの責任はどうするのか、消費者の利益にならない「恐れがある」というのであれば、保険加入を義務付けるなどいくらでもリスクを最小化するルールなどを整備することで十分だと思います。マイナーなネガティブな要素を全ての問題かのように論理をすり替える方法では持ちません。日本が規制をして認可しないという状況が続くことで、世界の潮流から取り残され、経済の停滞を招くことにもなりかねないわけで、既存業者にとって致命的な動きであったとしても、経済全体の発展にために規制するべきではないと思うのです。
個人所有の資産、資源を分散化して、「所有から共有へ」を加速することにより、経済全体の発展に繋がることはほぼ間違いありません。実際、多くの人が持っている車や、駐車場に限らず、空き部屋など、多くの資産を100%活用できていません。自分の持つ車を実際に利用しているのは5%以下の時間しかないと思います。個人でモノを持たず、人とシェアすることは、実は多くのモノの利用価値が増え、多くの人がモノを持つことと同じになるのです。
民泊の問題もいろいろ挙げられていますが、いわば個人の資産である空き部屋を下宿用に貸したり、賃貸アパートに出したりするのと同じことだと思うのです。日ごろ使っていない自分の資産がお金になるのであれば、貸したいと思っている人は多いはずです。もし、自分の庭が広い農家が、その一部を貸農園にして貸すことができればと考えている人と自分の畑で農作物を育てたいと考えている都会人をマッチングできれば、双方にとってハッピーであるとともに、経済全体にとってはプラスに働くことは間違いありません。
今後、大きなチャンスだと思うのが、自家用車のシェアリングであったり、頻繁に使わないスポーツ用具(スキーなど)のシェア、そして物理的スペースである共同作業場や倉庫共有などです。新たなシェアリングをマッチングするビジネスに注目です。