独資の海外子会社ではグローバル競争に勝てない
ベトナム経営人材育成のODAで取り組んでいる第17期ハノイ企業による約10日間にわたる来日研修と日本企業とのビジネス交流会が終了しました。毎年ベトナム企業の経営レベルが高度化している状況に驚いています。
今から約10年前あたりの研修チームは、半分日本観光を楽しみに参加していた人が多かったと思いますし、研修態度も疑問に思うことがしばしばでした。ところがこの4,5年の経営塾参加の経営者のレベルはスキルやモチベーションともに大きな変化が見られます。過去は日本企業を訪問しての感想は、あまりにも管理レベルや従業員のモチベーションに驚くことばかりで、日本とベトナム企業の差に愕然としつつ、必死になって勉強していました。
ところが、今やベトナム企業経営者は日本に学びつつも、「なぜ日本はここまで低成長に陥ってしまったのか」「少子化が加速して未来に希望が持てなくなってきているのに、なぜこんなに危機感が薄いのか」「世界が大きく動いているのに、市場が縮小している日本に閉じこもって海外に目を向けていないのはなぜなのか」「ものづくりで中国に完全に後塵を拝し、インドの成長性は確実なのに、なぜ日本はインドやアフリカにどう取り組もうとしているのか見えてこないのか」と冷静に日本を見つめているのです。
日本企業は、いつまでベトナムを技能実習生に代表とされるような低賃金で雇用できる労働供給国という目線でしか見れないのでしょうか。
ベトナム企業の多くは、かつてマレーシア等がルックイーストのようにアジアの先進国として日本から学ぼうとしていた時代の名残りがあります。まだまだ日本から学ぶべきことが多いと感じてくれています。
しかし、ベトナム企業の発展スピードは加速しています。VINFASTという国内の自動車メーカーが作った電気バスがハノイ市内を走り回っているのを知っていますか?先端技術も吸収し、マネジメントレベルも格段にレベルアップし、大胆な決断の速さと展開スピードには目を見張ります。
おそらく・・・もう数年以内には、ベトナムですらもはや日本から学ぶものはないと言われる時代がくるのが確実なような気がしています。もっともその前に、技能実習制度が見直されるよりも早く、働き口としてだれも応募してくれなくなり、どのベトナム企業も日本企業と取引するメリットを感じなくなってしまうのではないかとの危惧を感じます。
日本政府も日本企業も本当に危機感があるのでしょうか。
垂直統合型の海外子会社設立で勝てるとは思えない
日本企業にとっての海外展開とは、できる限り海外市場に製造拠点や販売拠点を100%独資で設立し、製開販の一気通貫事業戦略で競争優位性を確立するため、いわゆる垂直統合型で海外子会社を設立することを意味していました。
実際には、海外の発展途上国では独資による外国資本投資を認めず、出資比率の上限を設けて、合弁しかも出資比率50%未満でなければ海外拠点を認めないという国が多いのが一般的でした。やむを得ず合弁事業を展開し、規制緩和が進むにつれて出資比率を上げたり、独資法人の設立を目指してきた経緯があります。
当時は何とか独資展開を目指し経営資源を内包化で取り込むことこそが競争力確保の源泉でした。
しかし、自社の経営資源でグローバル競争を勝ち抜くことはもう無理であると悟るべきです。人材も大卒を定期採用してじっくりと社内で育てていくような時間的猶予はもうありません。時代の激変に合わせて、いや先取して人、モノ、カネ、ノウハウの経営資源を調達、確保するネットワーク型の経営戦略の差別化に真剣に向き合い、このままでは生き残れないと自覚している日本人の経営者があまりにも少ないと感じます。
垂直統合型で自社100%投資で海外に製造子会社を設立して、人を採用育成し、新規設備を導入し、販売網を構築している間に、投資回収ができないままに世の中で求められる顧客価値が変化し、設備も人も陳腐化してしまいビジネスモデルが機能しなくなってきている状況が多くなってきています。
特に人件費削減などを目的に海外に生産拠点を設立した多くの日本企業が行き詰ってきています。日本市場や日本企業だけを見た海外事業ではもはや生き残れないと思います。撤退するよりも、早くベトナム企業や他の日本企業と連携した経営資源の強みを組み合わせるネットワーク型事業へ転換するべきです。企業間で手を組まないと事業として成立しない経営環境になったことをもっと意識すべきではないでしょうか。
ベトナム企業は日本企業だけをみているわけではありません。中国企業や台湾企業、韓国事業との連携も強める中で、自社の経営戦略の立ち位置を模索しています。驚くことに既に彼らは将来巨大市場が約束されているインド市場でどのように取り組むのか真剣に検討しています。
一方日本企業は、「サプライチェーンの強靭化」という政府のお題目に乗せられて、中途半端に国内生産回帰や日本製品調達への切替えを検討させられています。中国リスクに対しても「デカップリング」ではなく「デリスキング(リスクの低廉化)」というどっちつかずの立ちすくみ状態になっているのが現状です。
日本から世界を見るのではなく、立ち位置を変えて、何がどう動いているのかを見極めていきたいものです。