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リスクマネジメントとコンプライアンス

世界からみて特異な日本人の特性として、「成功することに喜びを見出すのではなく、失敗しないことに喜びを感じる」ことがあります。一般的に日本人は、コンプライアンス遵守を何事にも優先して考える傾向があります。コンプライアンス遵守を徹底して経営リスクゼロを目指すことがリスクマネジメントの本質であると考える経営者が多いのです。日本人はとにかくリスクを避けたがります。少しでもリスクがあるようなことを分析して回避するため、決断を下すまでの時間が非常に長く、結果的に新たなビジネスチャンスを海外の競合に奪い去られてしまうケースは数多あります。リスクを徹底して避け、成長ができずに倒産してしまうリスクマネジメント倒産という笑うに笑えない可能性もあるのです。

特に、日本は法治国家であることを誇りに、法律万能主義の考え方を持っていて、知らずしらずに規制をされることを求めているM的な体質をもっているのではないかと感じることがあります。新たなことにチャレンジするよりも、規制の枠の中で安定的に失敗しないことに居心地の良さを覚えるのです。規制も何もなしに、自由に思う存分なんでもありで戦うという場に投げ出されると、不安を感じる内弁慶的な体質があります。

近年、大きな産業構造の変化が予測されるIoTやAIの領域で、政府があれもこれもいろいろ規制をしたがる傾向があります。政府にすれば、様々なガイドラインや投資支援の優遇税制、補助金などで産業界発展に資するという考えでやっているのですが、それらが結果的に企業の活力を削いでいるということに気づいていません。税金をまけてもらったり、補助金をもらったりすると確かにキャッシュフロー上は助かります。しかし、チャレンジ精神や活力に貢献しているのでしょうか。企業側も補助金漬けや外部からの業界参入を阻む規制を求めるぬるま湯につかっている間に、茹でカエル状態になっていることすらわかっていないのです。

例えば、UBERやAIRBNBでは世界はどんどん先に進んでいます。一方日本では、タクシー業界や旅館業界の声に押され事実上公式には認可されていません。国交省も自動運転やドローンの開発については、「安全上の・・・のおそれがある」のワンロジックで、ありとあらゆる規制をかけた結果、産業界もだんだん面倒くさくなって、短期に収益に直結する課題に注力してしまうことになっています。ドローンなんかは完全に中国が先進国です。当然空を飛ぶわけですから、墜落する事故の可能性があるでしょう。日本では法律が追い付かないため、国交省ではドローンを飛ばすために複雑な認可手続きを強制しています。200G以下のドローンは自由に飛ばせるとのことですが、それ以上の重量になると飛ばすための認可手続きが必要で、人口密集地域では認可が基本的におりません。しかも、国交省が出した人口密集地域の区分によれば、人が少しでも住んでいれば該当するようなものらしく、実際に飛ばすためには何度も役所の窓口で交渉しないといけないようです。もし墜落して人身事故が起きたら責任問題になるという恐れから、少しでも事故の可能性があるドローンは飛ばさせないというリスク回避のロジックで運用されています。こういった「・・・の恐れ」規制こそが産業発展の芽を摘んでいるのです。

アジアではコンプライアンスをどう考えているか

日本の企業経営者は、とにかくコンプライアンスであやふやなことは避けたい思いから、国や自治体に対しても法律上の明確化を求めます。つまり法律に規定されていなかったら、はっきりと規制してほしいと求めるのです。逆に法律が追い付いていない分野こそビジネスチャンスがあるのですが、どうもその分野で出過ぎた真似をすると居心地が悪い、事前にお伺いを立てて、このようなビジネスをやっても問題ありませんか、コンプライアンス違反になりませんかと訊ねるのは、日本人だけといってもよいでしょう。

実際、中国やベトナムなどの新興国では法律が実態にあっていない場合や、法律と実施細則の間で相互矛盾が起きたり、同じような分野で違う省庁から別の規制が出たりします。例えば、ベトナムで電気製品の省エネ規制により、省エネラベルの貼付を義務付けされたときがありました。そのときには大混乱した覚えがあります。省エネ法施行で省エネ基準値が出るのですが、そもそも測定方法について明確な定義がなかったり、国家認定の試験機関で受け入れるキャパがなかったりするのはざらです。一方、導入施行日だけが法律で決まっていて、実施細則の矛盾点を突いても政府側から返事がないまま、施行日以降に輸入港についた製品にラベルが貼っていない製品を税関側が法律に基づいて通関差し止めするのです。

日本企業はコンプライアンス違反しないように、最新の注意で事にあたります。法律が不十分であればちゃんと実施できるように細則を決めてほしいというのです(実際私も先頭にあって要望しつづけました)。省エネ法をきちんと守ることで、ベトナムで問題なく販売できるようにするのがリスクマネジメントの根幹だと信じて疑わないのが日本企業です。

ところが肝心のベトナム地場企業や韓国企業などは必死に動いている気配はありませんでした。彼らはどう考えていたかというと、こんなことは日常茶飯事で、ベトナムの法律が完全に施行されることはありえないと考えていたのです。日本人にとっては信じられないかも知れませんが、法律が施行されても、法律自体に問題があって誰も守れるはずがないものだったら、あとからどんどん変更されることが多いのです。一方、皆が守れない法律でも、国が徹底して規制や取り締まりを行ってきたときには、それはそれでいくらでも逃れるウラの方法があるので特に気にしていないというのが実態でした。

日本企業が現地企業のようにウラの方法を運用できることはないので、コンプライアンス遵守を徹底することは現地経営の王道であるのは違いありませんが、ベトナム地場企業はそれなりの方法でリスクマネジメントをおこなっているわけです。つまりコンプライアンスとリスクマネジメントは同じ概念ではないというのが世界の常識ではないかと思います。

コンプライアンスに少々問題があったとしても、新たなことに挑戦していく文化的土壌がある国が、イノベーションを起こし世界経済をリードしていくのではないかと思うのです。私は決してコンプライアンスを否定しているわけではありません。しかし、コンプライアンスが他のすべての価値観より優先するというのは何かおかしいのではないかと、昨今のドローンや自動運転の規制、UBERやAIRBNBの規制のような、日本人の「リスク回避に満足する」国民性そのものが経済発展を損なっている原因の一つではないかと疑問を感じています。