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海外事業の四大コンプライアンスリスク

昨今ではコンプライアンスがやたらとうるさく言われる時代になりました。特に日本では働き方に関する労働関連のコンプライアンスやハラスメントやヘイトといった人権に纏わることに目が向きがちになっています。一方で、海外事業のリスクマネジメントにおいてもコンプライアンスに対しては要注意であるのですが、むしろ日本の方が特殊な印象を受けるのです。

海外事業を展開される企業経営者の方に、海外でのコンプライアンスについて説明するときには、4つのコンプライアンスリスクについて理解を求めるようにしています。なぜならこれら4つのコンプライアンスに関する事項は、企業の存続危機事態にかかわることであるからです。確かに労務関連やハラスメントなども海外事業でも留意するべき項目ではあるのですが、これからご説明する4つのカテゴリーでは一つでもコンプライアンス違反が該当したとき、事業が継続できなくなる可能性を孕んだものであるという理解をもって、いかにしてそのリスクを下げるかというマネジメントを遂行してもらうべきものだと考えています。

1.国際カルテル

日本ではいわゆる不正競争防止法における独禁法にかかわる価格談合であったりするものですが、昨今ではリニエンシー制度の導入で、先に談合を自白したところの罪が軽くなるということで摘発が増えています。この独禁法の適用は日本国内だけでなく、グローバル全体で問われるもので、価格や生産数量、市場分割を企業間で協定したり、グループボイコットや再販価格維持を行うと摘発されます。海外に出ると日本企業の社会は比較的狭いので、その分企業間の距離感は短く、同業者同士でゴルフ場などで顔を合わせる機会も多くなります。例え談合のようなことをしていなくても、嫌疑がかかるリスクはいつもあり、最大の問題はカルテルに関する罰則は非常に厳しく、カルテルに直接かかわった本人だけでなく、日本にいる担当役員にも刑事罰が及ぶ可能性もあるので大変注意が必要です。

どうしても海外に出向するとこのあたりの感覚が鈍くなるので、嫌疑を受けないような日常の言動に注意するなど、海外赴任者のカルテルに関する研修、リマインドが非常に重要です。

2.汚職・賄賂

発展途上国では常について回る悩ましい問題です。こちらが賄賂をする気がなくても、現地の公務員が調査権や公的機関の手続きで便宜を供用するにあたって袖の下を要求することが後を絶ちません。東南アジアなどでは要求する側もお世話をしたら謝礼を求めるのは文化として習慣化されているのが悩ましいところです。

海外で外国公務員に贈賄行為を行うと、日本では不正競合防止法の域外適用で、日本の法律で裁かれ有罪となってしまいます。またアメリカは海外腐敗行為防止法、英国は贈収賄防止法で国外での贈賄行為で摘発されると、その企業グループが米英で処罰を受けてしまいます。日米英とも個人・法人への刑事罰の他、民事制裁や政府系機関による処分を受ける可能性があり、賄賂行為を行った国での責任範囲ではないという認識が必要です。

記憶に新しいところでは、大手のプラスチック製品のメーカーである天馬株式会社のベトナム子会社が税務局と関税局に査察後の追徴課税を減額してもらおうと職員に現金を渡したことが発覚し、コンプライアンスの観点から東京地検に自白したものの、結果として本社社長や経営企画部長、現地子会社課長が有罪となり、本社社長の退任まで追い込まれました。

どうやれば贈賄リスクを下げることができるかといったバイブルはありません。しかしコンプライアンスは日本の感覚で全てホワイトが正しいという経営では通用しない面もあります。そこをどうやって乗り切っていけるかについては、現地事情に熟知したアドバイザーとチームを組んで適切に対応する以外にないと思います。

3.移転価格税制

通常、海外拠点の経営は親会社からの出資や貸付金、技術援助などで運営されています。ただ、その出資や援助に対するリターンが泣ければ日本の国税は日本事業の所得隠し先とみなす可能性があります。海外子会社に組立工程を担当させる事業で、部品を親会社から子会社に送ったときの価格によって、親会社と子会社の利益配分を操作することが可能と日本の国税だけでなく、現地の税務当局も本来現地政府に納入するべき法人税を不当に削ったと見なすリスクがあります。これが悩ましい移転価格税制です。この問題は親子間の価格操作だけに留まらず、技術援助契約の妥当性や親から子会社に求めるマネジメントフィーや、 パテントの使用料、日本からの出張者の旅費負担はどちらの法人に帰属するべきものか、両国の税務当局から法人税の取り合いが激しくなって、結果的に二重課税に追い込まれることもあります。

第三者への販売価格や契約での単価が一つの比較基準となりますので、日頃から価格の妥当性について証明できるようにしておかないと、利益を両国の税務署に吸い取られてしまうことになりかねません。

4.現地税制・規制のコンプライアンス

悩ましいのは展開国によって法律がバラバラであることです。よく問題となるのが、日本人出向者に対する総合課税と源泉所得税の納付、外国人就業に関する規則や労働許可の取得、VATなど税制対応、現地会社法、PE認定、タックスヘイブン対策税制に加え、環境対応の規制などそれぞれ現地の法律に準拠したコンプライアンス遵守は非常に難易度が高い業務管理となります。

このコンプライアンスで違反があると業務停止措置を受けることもあったり、東南アジアのほとんどでは細かい書類上のミスや誤記を捉えて、すぐに罰金が科されるケースが非常に多いです。またこの問題が上記の賄賂問題と直結してくるケースが多くあり、規制を見逃して罰金を課さない代わりに賄賂を寄越せという要求が日常茶飯事なのがやっかいなところです。きっちり法律に準拠した経営ができておれば問題はないのですが、法律自体が縦割りで法律間で矛盾が起きているのが普通にあります。

例えば天然資源環境省の省エネ規制で基準に沿って★のエコマークの製品ラベルを貼るという法律が決められていたときですが、すぐにどこでどういった基準でテストして★判定をするのか実施細則が全く身められていないのに法律が施行され、ラベルが貼っていないエアコンがベトナムの港で通関できなかったり、ラベルがないから税関が罰則を徴収にかかったりする理不尽な事態は常に発生するのです。

以上の4つのコンプライアンス以外にも環境基準や防火基準などいろんな規制に対応する必要がありますが、重要なのは日本人が日本でイメージするコンプライアンスが世界で海外展開するときのリスクとして認識するだけでは不十分だと認識してもらいたいと思います。